【1億5000万円不正受給の謎】全日本吹奏楽連盟の公益目的財産は正しく処理されていたか?

一般社団法人全日本吹奏楽連盟が不正受給を公表した4カ月後に開いたオンラインによる臨時理事会の席上で新たな監事から公益目的支出計画実施報告書について「理事会の承認後、監査を受け、総会に報告しなければならないと定められているが、今まで行ってきた形跡がない」との指摘がなされている。これを受けて翌月にオンラインで行われた臨時理事会で2019年度公益目的支出計画実施報告書を承認可決しているのだがどういうことだろうか?

公益目的支出計画実施報告書とは何か

そもそも公益目的支出計画実施報告書とは何か? 政府は2002(平成14)年3月に「公益法人制度の抜本的改革に向けた取組みについて」を閣議決定し公益法人改革に乗り出したが、その背景には公益法人が官僚の天下り先になっているとの指摘や補助金不正受給が明るみになるなど公益法人に対する社会的な批判の高まりがあった。2006(平成18)年3月には国会に公益法人制度改革関連3法案が提出され可決成立し、同法は2008(平成20)年12月に施行された。これを受けて公益法人は5年間の猶予期間のうちに、税制上の優遇はないが公益事業の有無にかかわらず登記するだけでいい一般法人(一般社団法人、一般財団法人)として運営していくか、税制上の優遇を受けられるが公益性の認定を受け行政庁が監督する新たな制度にもとづく公益法人(公益社団法人、公益財団法人)として運営をしていくのか選択を迫られることになった。

新制度への移行に際し、公益法人として蓄えた資産を有する団体が一般法人へ運営を移行した場合、それら資産が公益事業以外で使用される可能性が生まれる。旧制度において公益法人は税制上の優遇を受け、また、補助金も得て運営されてきたため、そうして蓄えられた資産は公的な性格が強く、よって一般法人に移行後も資産は公益事業で使われる必要がある。そのため政府は一般法人に移行する団体に対して、移行時に資産を明らかにし、それら資産を公益事業でどのように使うのか計画を作り、移行後も計画通りに資産が使われているか毎年度報告するように定めた。それが公益目的支出計画実施報告書だ。

一般社団法人に移行する3年前に事務局長、次長に

全日本吹奏楽連盟は文部科学省が所管する公益法人だったが、2013(平成25)年4月に一般社団法人へと移行した。新たな公益法人制度のもとで公益法人ではなく一般法人を選択した理由について移行期に理事長を務めた平松久司氏(故人)は、「連盟が運営している内容がしっかりと維持されることが最も重要と考えております。事業内容の継続と健全な財政面の視点から見ると、公益社団法人の場合は、許可されたとしても今後の運営にのしかかる課題がさまざまに発生すると思われます」と会報「すいそうがく」に記している。その平松氏は一般社団法人への移行とともに理事長の椅子から去り、副理事長だった丸谷明夫氏(故人)が新たな理事長に就任した。つまり丸谷氏は一般社団法人化した全日本吹奏楽連盟の実質的な初代理事長と言える。

一般社団法人に移行する3年前、2010(平成22)年4月に事務局長、事務局次長に就いたのが不正受給をしていたとされる元事務局長のK氏と元事務局次長のT氏だった。不正受給は両氏が事務局長、事務局次長に就いた2010年4月から始まり、発覚した2019年12月まで9年9カ月間にわたり行われていたとされている。K氏が事務局職員として就職した1年後にT氏が就職し、以降、両氏は連盟の裏方を務めてきたのだ。また引責辞任した元監事はK氏が連盟に就職した3カ月後に監事に就任し、その後、連盟の顧問税理士も務めた。3人は連盟の「裏」をもっともよく知る人物なのだ。

そして公益法人改革の渦中に事務局長と次長に就いたK氏とT氏にとって連盟の一般社団法人への移行は大きな仕事だったに違いない。2011年5月に開かれた通常総会について記した会報「すいそうがく」を見ると、K氏が「現在、一般社団法人への移行を目指して内閣府、文部科学省と交渉中」と状況を説明している記載がある。K氏は「一般社団法人への移行には、3つの審査がある。新定款、公益目的支出計画、そして、会計上の書類を新しい法律に合わせて作成すること、の3つである」と話し、公益目的支出計画はいつ作成されるのか?という質問に対しては「まさにこれから作成する」と述べているのだ。

一般社団法人移行時の財産は28000万円

では、全日本吹奏楽連盟の公益目的支出計画はどのようなものなのだろうか? 全日本吹奏楽連盟が内閣府に2014(平成26)年6月に提出した一般社団法人に移行して最初の年度である2013年度の公益目的支出計画実施報告書によると、公益目的財産額は約2億8000万円、2013年度の公益目的支出額は約2000万円である。公益目的支出の内容は全国にある吹奏楽連盟への助成として計1700万円、他は全日本アンサンブルコンテストの運営費の一部である。つまり全日本吹奏楽連盟は一般社団法人に移行時に2億8000万円の資産があり、うち約2000万円を2013年度に公益目的として支出したということである。以降、毎年、全国の吹奏楽連盟への助成として計1700万円のほか全日本アンサンブルコンテストの一部運営費を公益目的として支出しており、2021(令和3)年度が終わった時点で全日本吹奏楽連盟の公益目的財産の残額は約1億円である。9年間で約1億8000万円を公益目的として支出していることになる。ただし、これはあくまでも書類に記載されている内容だ。

ところで最初に記したように不正受給を公表した4カ月後の2020年5月にオンラインで開かれた臨時理事会では、監事が公益目的支出計画実施報告書に関し「理事会の承認後、監査を受け、総会に報告しなければならないと定められているが、今まで行ってきた形跡がない」と指摘している。これはどういうことだろうか? 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律と同法施行規則により、公益目的支出計画実施報告書は監査を受け、理事会の承認を受けた後、社員総会又は評議会に報告すると定められていることを指しているものとみられるが、それを「今まで行ってきた形跡がない」とはどういうことか?

指摘を受けて理事会は翌月に2019年度の報告書について承認可決しているのだが、「今まで行ってきた形跡がない」というのだから2019年度の報告書にとどまらず過去に遡って法に則った手続きがとられていなかったことを意味しているのではないか? 実際、過去の記録を見ると、公益目的支出計画は予算とまとめて総会で承認をとりつけているように見受けられる。全日本吹奏楽連盟は元事務局長のK氏と元事務局次長のT氏が不正受給額を事業費に付け替え、決算書も偽造して二重帳簿を作成するなどして9年9カ月間にわたり計約1億5000万円を不正に受給したとしているが、年間1000万円を超える額を10年近くにわたり不正に受給してきた「手口」が事業費への付け替えでは説得に欠けるのではないか? また、不正行為をした理由についても全日本吹奏楽連盟は明らかにしていない。不正に受給されたとされる1億5000万円はどういう金なのか? 全日本吹奏楽連盟の会計実態が問われる。

(フリーライター・三好達也)

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