伊豆半島にある宗教法人平和寺本山の代表役員を務め、その後、合同会社函南メガソーラーパークの代表になったX氏。そのX氏と同姓同名の人物が役員として名前を連ねていた会社がある。ミュージシャンで音楽プロデューサーの小室哲哉氏が2007(平成19)年に吉本興業との契約解除後に所属したとされる株式会社イーミュージックだ。
土地売却を持ち掛けた男たちが持っていた名刺

2015(平成27)年ころ、後に函南メガソーラー開発計画の舞台となる函南町の軽井沢地区や田代地区で住民に山の土地の売却を持ちかける男たちがいた。彼らが渡した名刺には合同会社函南メガソーラーパークと記されており、本社住所として東京都千代田区東神田、本店住所として東京都新宿区住吉町と記載されていた。合同会社函南メガソーラーパークは、2013(平成25)年にX氏を代表社員として設立された会社だ。その事業は、登記簿によると太陽光やバイオマス等による発電事業やその管理、運営や再生可能エネルギー等の活用に関するシステムの企画、設計、研究、開発及び施工だった。男たちはメガソーラー開発の用地を探していたのだ。その代表者であるX氏は2008(平成20)年4月から2011(平成23)年3月までの間に6回、平和寺の代表役員を務めているが、1回当たりの在任期間は長くても3カ月間程度でたった7日間の時もあった。
このX氏と同姓同名の人物がネット上ではイーミュージックという会社の代表者だったり役員として登場する。例えばウィキペディアのイーミュージックの項では「株式会社イーミュージックは、『日本の音楽のレベルを上げる』ことを目的として音楽製作プロダクション事業、コンサートイベント企画などを行う企業である」と記され、役員事項のページを見ると代表取締役や取締役、監査役としてX氏と同姓同名の名前が記載されている。この人物の言葉として「小室哲哉氏の再起を願いスタートした」企業とウィキペディアは記している。ミュージシャンや音楽プロデューサーとして一世を風靡した小室氏だが、2007年に吉本興業とのマネジメント契約が終了、2008年には大阪地検特捜部に詐欺容疑で逮捕され、当時、大きく報道された。この間、小室氏と契約しマネジメントを担ったのがイーミュージックとされるのだが、そもそもイーミュージックとはどのような会社なのか?
静岡県函南町の軽井沢地区や田代地区で合同会社函南メガソーラーパークと記された名刺を持った男たちが住民に山地の売却をもちかけていた2015年、その年に発行された週刊文春の記事にイーミュージックを取り上げたものがある。「『小室哲哉』を使って1億6000万円集めた詐欺師集団」とタイトルのついたその記事は3月5日号に掲載されている。記事は、イーミュージックがEMサポートクラブなる名称で詐欺的にお金を集めていると告発したものだ。「小室哲哉の版権をもっている」「音楽業界は潰れることがないから安心だ」などと言われて一口10万円の投資話を持ち掛けられ、大金を出したものの配当はなく返金もされないなどの声を紹介してイーミュージックが詐欺的商法を行っていると記事は記している。
EMサポートクラブとEMグループ
気になるのはEMサポートクラブという名称だ。EMとはつまりイーミュージック(emusic)のEMに違いない。つまりイーミュージックをサポートするクラブという意味なのだろう。なぜこの名称が気になるのかというと、函南で山地の売却を持ち掛けていた男たちが持ち歩いていた名刺には、「合同会社函南メガソーラーパーク」とともに「EMグループ」と記されていたからだ。
名刺にイーミュージックを連想させるグループ名を記し、イーミュージックの代表や役員を務めた人物と同姓同名の人物が代表者になって設立された合同会社函南メガソーラーパークは株式会社イーミュージックのグループ会社なのではないか? もし、そうであれば伊豆半島でブルーキャピタルと東京産業、中部電力子会社のトーエネックの3社によって計画されたメガソーラー開発のきわめて初期の段階に株式会社イーミュージックの関連会社が関与していたことになる。さらにその関連会社の代表者は伊豆半島に所在する宗教法人の代表役員をしていたということにもなる。合同会社函南メガソーラーパークと株式会社イーミュージック、そして宗教法人平和寺本山はどのような関係にあるのか? あるいは関係はないのか? そして函南町軽井沢地区で持ち上がったメガソーラー開発計画との関係は? 住民の粘り強い反対によって計画はとん挫したが、地域にとって「寝耳に水」だった函南町のメガソーラー開発計画は誰が画策し、どのように具体化していったのか、その詳らかな経緯は未だ明らかでない。