一般社団法人全日本吹奏楽連盟が2020年1月に明らかにした不正受給問題。その額は1億5000万円と莫大なものだ。不正行為は10年間にわたり継続して行われ、その間、連盟はその事実に気づかなかったという。にわかには信じ難い話だが、そもそも全日本吹奏楽連盟とはどのような団体、組織なのだろうか?
全国各地の吹奏楽連盟の代表者が法律上の社員
全日本吹奏楽連盟は吹奏楽及び管・打楽器による音楽の普及・向上を図っている一般社団法人で、全日本吹奏楽コンクールを朝日新聞社とともに主催していることで知られている。全日本吹奏楽コンクールは地方大会を勝ち抜いた全国の中学校や高校の吹奏楽部や大学、職場等の吹奏楽グループが部門ごとに出場し、その演奏を審査員が審査し、賞が授与されるアマチュア吹奏楽最大のイベントだ。地方大会を含む大会への参加団体の総数は1万団体を超えるとされ、出場者にとどまらず学校や父兄、友達や地域をも巻き込んで感動あり、涙ありの熱い戦いが繰り広げられ、それ故に「吹奏楽の甲子園」とも言われている。
全日本吹奏楽コンクールを開催しているのは全日本吹奏楽連盟だが、全国大会の前に地域ごとに開催されるコンクールを開催しているのはそれぞれの地域の吹奏楽連盟である。全日本吹奏楽連盟とは別に府県単位で吹奏楽連盟があり、また、東京都には部門単位で6、北海道には地区単位で11の吹奏楽連盟がある。これら62の吹奏楽連盟にはさらに下部組織もあるようである。全日本吹奏楽連盟とこれら地域の吹奏楽連盟はどのような関係にあるのだろうか? 全日本吹奏楽連盟の定款によれば、62の吹奏楽連盟の代表者が全日本吹奏楽連盟の正会員であり、法律上の社員になる。全国62の吹奏楽連盟の代表者は年1回開催される全日本吹奏楽連盟の定時総会に出席し議決権を行使して運営に関与している。
全日本吹奏楽連盟が行っている事業は、全日本吹奏楽コンクールの他にもマーチングコンテストやアンサンブルコンテストなどのコンテスト、さらに吹奏楽の啓発・普及、音楽教育など多岐にわたるが、年間を通じて行われている主要な事業は定款で決まっている。そして、これら事業を実際に担っているのは、総会で承認された理事と監事により構成される理事会である。理事会の代表者が全日本吹奏楽連盟の会長であり、理事会をサポートしているのが事務局である。一般社団法人吹奏楽連盟の組織的な概要を図式化するとおおむね以下の図のようになる。ちなみに図の中にある維持会員とは経済的に連盟をサポートしている企業・個人であり、名誉会員とはその功績により連盟が名誉会員として承認した会員である。ともに連盟の会員ではあるが議決権は有しておらず、その運営には関与していない。
2020年に明らかになった不正受給問題とは、事務局のトップとナンバー2に莫大なお金が10年間にわたり流れ込んでいたということであり、このような組織構図の中でなぜ、そしてどのようなお金が事務局の2人に渡っていたのかというのが本稿の根本的な問題意識である。
加盟団体は1万4000前後、7~8割が中高吹奏楽部
アマチュア吹奏楽の団体が全日本吹奏楽コンクール等の連盟のイベントに参加するには吹奏楽連盟に加盟しなければならない。加盟は全日本吹奏楽連盟ではなく、その団体のある地域の吹奏楽連盟に加盟することが登録規定で定められている。地域の吹奏楽連盟の中には情報を公開しておらず表向き実態不明の連盟もあるが、例えば神奈川県吹奏楽連盟はネットに情報を公開しており、それによると同連盟には8つの支部連盟があり2022年度の加盟団体数は計685である。加盟団体の総数は、全日本吹奏楽連盟が明らかにしている直近のデータでは1万3575(2021年10月1日現在)となっている。以下の図は加盟団体と吹奏楽連盟の関係を示したものである。
以下のグラフは1994(平成6)年から2017(平成29)年の間の加盟団体数の推移をグラフ化したものである。不正受給が始まったとされる2010(平成22)年4月の前後を含め加盟団体数は1万4000前後とほぼ横ばいで、全日本吹奏楽連盟が明らかにしている直近(2021年10月1日現在)の加盟団体数は1万3575ということであるのでやや減少気味ではあるが、1万4000前後の横バイ状態を継続していると言える。加盟団体を部門ごとに見ると、中学校がもっとも多く、次いで高等学校が多い。中学校と高校の加盟団体が全体の7~8割を占めている状況であり、吹奏楽連盟の活動が中学校、高校教育と深く結びついていることを伺わせる。
全日本吹奏楽連盟とは、全国62の吹奏楽連盟の代表者が正会員=社員の一般社団法人で、具体的な事業は連盟が総会で選出した理事と監事で構成する理事会が担っており、理事会をサポートしているのが事務局である。加盟団体は約1万4000前後とほぼ横ばいであり、そのほとんどは中学校と高校の吹奏楽部が占めている。このような構図の中で、どのようにして事務局の特定の職員に莫大なお金が流れていったのだろうか? 全日本吹奏楽連盟の事業は定款で定められており、年間を通じて取り組む内容はほぼ決まっている。全日本吹奏楽連盟によると、不正受給は不正受給額に相当する金額を事業費等に振り分けた偽の決算書を作ることで行われ、当時の監事は決算書が不正であることを知りながら看過していたという。
全日本吹奏楽連盟の事業はほぼ同じことを毎年行っているのであるから、特異なことがない限りその支出に大きな変動はないはずだし、収入についても加盟団体が横ばいである状況を踏まえれば年によって大きな変動があるとは考えにくい。にもかかわらず、ある時期から突然、事業費等が1000万円も増額している決算書が作られたら、そもそも収支の全体額が例年より増えることになるし、収入と支出の辻褄が合っていても、なぜこんなに事業費の支出が多いのか? ということにならないだろうか? 全日本吹奏楽連盟におけるお金の流れはどのようになっていたのだろうか?
(フリーライター・三好達也)