ソーバラティン国民統一政府駐日代表
2021年2月の軍事クーデター以降、混迷しているミャンマー。凄惨な弾圧を続けている軍に対してアウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが中心になって国民統一政府(NUG)を組織して戦っている。NUGは海外にも事務所を設置しており、その中には日本も含まれている。NUG駐日代表のソーバラティン氏に話を聞いた。
「軍との戦いは祖父の代から」
―本日は取材を受けていただき有り難うございます。最初に代表のプロフィールを教えてください。
ソーバラティン氏「私はカレン族(※1)で、軍とは祖父の代から戦ってきました。1948年にビルマ連邦共和国が成立(※2)すると軍が政治に関与するようになり、カレン族に対する弾圧を始めました。これに抵抗するため、私の祖父を含む多くのカレン族が軍と戦いましたが、多くは命を落としました」
※1 ミャンマーは多民族国家でカレン族はタイと国境を接するミャンマー東部、南部に居住している少数民族。
※2 ミャンマーはイギリスの植民地だったが第二次世界大戦中に日本の占領下でビルマとして独立、日本の敗戦によりイギリスの支配に戻ったが1948年にビルマ連邦共和国として独立した。
―どのような経緯で来日されたのですか?
ソーバラティン氏「軍への抗議活動で私の家族や親せきも逮捕されてしまいました。私は1988年から軍への抗議活動に参加していましたが、仲間たちが次々に逮捕されてタイ国境へ逃れざるを得なくなり、その後、1992年10月に来日するに至ったのです」
―来日されてからの取り組みについて教えてください。
ソーバラティン氏「1992年に来日し1996年に在日のカレン族グループを結成しました。その翌年には日本で初めてカレン族の正月の祭りを開催しました。このお祭りは現在も続いています。2000年には在日カレン民族同盟(KNL)を発足させて私は幹部を務めています。2002年頃からは在日の他のミャンマー少数民族との交流も始まり、2012年にNPO法人PEACE(ミャンマー少数民族支援団体)を発足させました。私はこの団体の副理事長としても活動しています。ミャンマーには多くの少数民族があり文化や風習は異なりますが、軍事政権に反対する考えは一致しています」
―ミャンマーの少数民族として日本で様々な取り組みをされてきたのですね。
ソーバラティン氏「ミャンマーの少数民族による“平和で民主的な国家、連邦国家の樹立”を目的として、2022年から年1回、『フェデラルフェスティバル』という催しも都内で開催しています。今年は11月17日に新宿の戸山公園で開催します。このイベントの目的として少数民族間の価値観の共有があります。また日本の皆さんにミャンマーの民族文化を知ってもらう機会にもなります。12月8日には大阪でも開催する予定です」
「軍の支配は国全体の30%にも満たない」
―現在はミャンマー国民統一政府(NUG)の駐日代表も務めていらっしゃるわけですが、NUG駐日代表としてはどのような取り組みをされていますか?
ソーバラティン氏「2020年の総選挙でアウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が勝利しましたが2021年に軍事クーデターが起きました。軍事政権に対してアウン・サン・スー・チー国家顧問、ウィン・ミン大統領などNLDを中心としたメンバーによって結成された組織が国民統一政府(NUG)です。私は2022年2月1日にNUG駐日代表に就任し、以降、NUGを正統な政府として認めてもらうための活動をしています」
―具体的にはどのようなことですか?
ソーバラティン氏「NUGの閣僚が来日した際や、私たちがイベントを主催する際に日本政府関係者や国会議員を招待し、私たちの考えへの理解を深めてもらっています。また、『ミャンマーの民主化を支援する議員連盟』や、人権NPOなどが主催する会議に私たちが招待された際は、私たちの意見を発表する機会を設けていただいています」
―日本からNUGの正当性や主張を訴えていらっしゃるのですね。
ソーバラティン氏「SNSやYouTubeでの発信もしています。ミャンマー軍事政権は、来年にも総選挙を実施する表明をしていますが、軍の現在の支配地域は国全体の30%も満たず、このような状態でまともな選挙はできないと世界に向けて発信しています。また、在日ミャンマー人のサポートも行っています。例えば、在日ミャンマー人のパスポートが切れ、勤務先との契約更新に支障が生じている場合、私たちが入国管理庁などに手紙を出して、再入国許可証の発行を要請しています」
―海外のミャンマー人の民主化活動に対して軍事政権からの圧力はありますか?
ソーバラティン氏「帰国したら死刑になると大使館を通じて言われたり、ミャンマーにいる家族のもとに軍関係者が訪れて脅迫行為が行われたりしています。民主化デモに参加することに軍はそれほど敏感ではありませんが、NUGの活動に直接従事していると軍の標的になります」
―さきほどパスポートの話がありましたが、来日して日本で仕事をしているミャンマーの人たちにはどのような影響がありますか?
ソーバラティン氏「在日ミャンマー人がパスポートを更新する場合、去年8月頃から月収が20万円以上の場合は24,000円、20万円未満の場合は12,000円の更新料が必要になりました。また、ミャンマーでは今年初めから徴兵制が実施されて22歳から31歳までの男性は原則、ミャンマーから出国できず、出国する場合は、軍政府と契約を結ばなければならなくなりました。どのような契約かというと海外で得た給料の25%をミャンマーに送金するというものです。軍政府は外貨を獲得したいのです。さらに今年5月からは給料の10%をミャンマー政府に納めなければならなくなりました。納めないとパスポートを更新しないのです」
「日本のODAの一部資金が軍に流れている」
―日本政府や日本の政治家にはどのようなことを期待されていますか?
ソーバラティン氏「ミャンマー軍は2021年に軍事クーデターを起こし、現在も、空爆などで村ごと焼き払うなどの蛮行を行っています。にもかかわらず、日本政府はミャンマー軍事政権との関係を継続しています。2020年の総選挙において勝利したアウン・サン・スー・チー氏が率いるNLDが中心となり、軍事クーデター後に結成した組織がNUGです。ミャンマー国民に選挙で選出された議員たちによって設立されたNUGを日本政府が未だに承認しないことを残念に思います」
―今年2月の外務大臣談話(※3)でもNUGには触れていませんね。
ソーバラティン氏「日本がミャンマーで行う政府開発援助(ODA)の一部資金が、ミャンマー軍に流れているため、日本政府はこれを止め、内戦状態にある地域や避難民が多い地域など、本当に支援を必要としているミャンマー国民に直接、物資を届けてほしいです。日本はG7の中で、他の6か国と比べるとミャンマー支援が遅れていると感じています。ミャンマーは国境を越えた支援を必要としています」
※3 令和6年2月1日の外務大臣談話「クーデター後3年のミャンマー情勢について」https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/pageit_000001_00006.html
―最後に在日ミャンマー人に関して日本政府に期待されることを教えてください。
ソーバラティン氏「在日ミャンマー人をこれからも支援し続けてほしいです。ミャンマー国軍からの圧力に屈することなく、支援を積極的に続けてほしい。軍事クーデターにより、ミャンマーに帰れずに難民申請した在日ミャンマー人もいます。こうした人の存在を無視しないでください。また、パスポートが切れた在日ミャンマー人でも、日本で働けるよう、軍の圧力に屈することなく認めていただきたいです」
(聞き手 佐々木浩)