神戸市の王子公園再整備基本方針(素案)に対して以下、意見を表明します。
- 利用実態が検証されていない
本件再整備基本方針(素案)は神戸市が所有する神戸市灘区の約19.4ヘクタールの敷地を再整備する基本方針を神戸市が示したものです。この敷地には現在、以下の施設があります。
- 王子動物園(遊園地含む) 8.1ha
- 王子スタジアム 2.6ha
- テニスコート1.1ha
- 体育館 1.0ha
- プール 1.0ha
- その他(駐車場、ちぴっこ広場、弓道場、わんぱく広場、北獣舎、旧ハンター住宅、補助競技場、相撲場、神戸登山研修所、神戸文学館、原田児童館)
本件再整備について神戸市は、施設の老朽化・陳腐化をあげ、また、交通至便な駅前の立地特性を活かせていないなどの理由をあげて再整備の意義をうたっていますが、一方で既存施設の利用実態については何も触れていません。再整備である以上、既存施設の状況について十分に実態を把握し、その上で老朽化の状況やそれに伴うリスク、施設の機能が十分に活かされているのか等を検討し、再整備計画を立案すべきところ本件再整備基本方針案において現状への評価は老朽化・陳腐化とだけ記載するにとどまり、具体的に何がどのように老朽化・陳腐化しているのか、利用状況はどうであるのか、それぞれの施設が十分に機能しているのか等、再整備の前提となるべき実態とそれに対する市の考え方が示されていないため素案とはいえ極めて説得力のない、絵に描いた餅のような案になっていると考えます。
- 施設の廃止理由が明確ではない
本件再整備基本方針(素案)ではプール、テニスコート、補助競技場、陸上トラック、わんぱく広場、遊園地を廃止することが記載されていますが、1で示したように市の現状認識が老朽化・陳腐化とだけしか示されていないことから廃止する理由が明確ではありません。一般に公共施設を廃止するケースとしては、利用されていない、大幅な赤字による財政圧迫、新規施設の建設に伴う廃止等のケース等が考えられますが、こうした廃止を判断する理由が何も示されていません。単なる老朽化であるならば施設の改修を選択すべきであるところ、なぜ廃止をするのかその理由が示されていないのは問題だと考えます。また、地域の施設として利用がある場合、廃止された施設の機能をどのような形で代替するのか、その点についても何も触れていないことは問題だと考えます。
- 子供たちの遊び場を立体駐車場にするという異常
本件再整備基本方針(素案)では遊園地を廃止し、そこに立体駐車場を建設するとの案が示されています。遊園地は子供たちの遊び場となっており、親子連れでしばしば訪れる人も多い空間です。観覧車やメリーゴーランドなど懐かしい遊具も多く、公園内のほぼ中央に位置することから園内に植栽されている桜とともに観覧車からのぞむ風景は絶景で、地域にとどまらず全国から動物園と合わせて多くの人が訪れる憩いの空間でもあります。
老朽化とそれに伴う安全性への対処は必要であり、そのために再整備をされるべきところ、その敷地を立体駐車場にするとの神戸市の姿勢は不可解と言わざるをえません。しかも、再整備のコンセプトに学術・文化・スポーツ拠点の形成をかかげておきながら子供たちの空間を撤去して公園の真ん中に立体駐車場を整備するとの思考は到底理解できるものではありません。駐車場の設置は地域の商店街や道路計画、車の流動性等と合わせて検討されるべきものであり、公園の真ん中に立体駐車場を設置するとの現状の案は公園の環境や価値を著しく棄損することに加え、多くの動物が飼育されている動物園の隣接スペースでもあることから動物愛護の観点からも問題だと考えます。
- 区画割り(ゾーニング)を基本方針案としており本末転倒である
本件再整備基本方針(素案)は、土地の区画割り(ゾーニング)案とその理念のようなものを示したものであり、素案とはいえ再整備基本方針案となっていません。現在、この敷地においてもっとも面積を有しているのは王子動物園であるのですから、本件再整備計画の中心的なテーマとなるのは王子動物園であるべきと考えます。特に動物園は、人間だけが有する極めて特殊な施設であり、また、生命や自然、環境との向き合いを示す施設でもあることから今日、動物園は都市や地域の生命観や自然、環境観を反映した施設と見なされる傾向が強く、動物福祉の観点からも動物園の在り方が問われています。つまり王子動物園をどのように整備するのかは、神戸市の今後の評価に大きく関わる重大事であるということです。にもかかわらず、本素案では都市型動物園へリニューアルするとの漠然とした記載にとどまり、中身がまったく示されていないのは問題だと考えます。
- 面積を決めた理由が定かでない
上記4に記したように中身についてまったく記されていないにもかかわらず、動物園の面積が従来より1.1ha小さな7haとされているのは不可解としか言いようがありません。本来、再整備とは不要なものを廃し、必要なものについてはその機能をさらに充実、発展させるように手を加えてよりよいものに整備していくことを言うものであり、そうであるならば整備の内容に応じて面積を決めるのが妥当です。しかるに、本件においてはなぜ動物園を7haとするのか、その理由は何も示されておらず、その他の施設についてもなぜその面積が割り当てられるのか素案には何も書かれていません。一方的に区画割りとして面積が示されているだけであり、なぜその面積であるのか説明がなされていません。
- 跡地利用ではない
本件は再整備のための基本方針(素案)です。しかし、1に示したように既存施設の現状分析は行われておらず、一方で大学誘致が一方的に示されています。仮に本件が市施設の跡地利用であったり、遊休市有地の利用であれば大学誘致案も妥当と言えるかもしれません。また、本件再整備においても、現状を検証した結果、他に利用できる余った敷地があるので大学に使ってもらおうというようなことであれば理解できるでしょう。しかし、既存施設を廃止して大学を誘致する、しかもそれら施設の利用実態は明らかではなく、廃止した場合の代替案についても何も触れられていない、このような現状の素案では到底多くの市民に理解が得られるとは思えません。
- 5W1Hがまったく不明であり進め方が本末転倒である
本件再整備基本方針(素案)には素案作成に至る経緯や取り組みがまったく記されておらず、この素案がどのようにして決まったのか、いつ、どこで、だれが、どのようにして決めたのかという5W1Hが不明です。久元喜造市長は2021年1月29日の会見において王子動物園を他に移すことを検討したことを明らかにしていますが、いつ、どこで、だれが、どのような検討を行ったのか明らかにしていません。
本件再整備には動物園やスポーツ施設といった専門性を有する施設が含まれ、また、市民と深くかかわる施設の再整備なのであるから、本来、それぞれの専門家や利用者、市民の代表なども交えた諮問委員会等が設置されて意見が集約され、それをもとに市が具体的な案を示すというのが一般的な進め方と認識しています。
また、大学の誘致やアメリカンフットボールのスタジアム建設についても、どのようにしてそのような案が出てきたのか、これまでどのような話しあいが行われ検討がなされてきたのか不明です。本件素案はどのようにしてまとめられ、発表に至ったのか、まったく不明です。
- 世界の魅力的な都市には魅力的な公園がある
ニューヨークのセントラルパークやワシントンのワシントン・スクエア、ロンドンのハイド・パーク、パリのリュクサンプールなど世界の主要都市には緑豊かな美しい公園がたくさんあります。こうした公園は市民の憩いの場になっているにとどまらず、都市の歴史と深く結びついていて、地域のシンボルや心のよりどころになって大切にされている。公園にはその街の歴史や暮らす人たちの思いが脈づいているわけです。そうした思いに共感する人たちが世界中から訪れ、公園は観光地としての価値ももつようになった。人を呼び込むための作られた価値ではなく、真の価値があるから人が集まるのです。
王子公園も同様に地域から親しまれ、また、震災を含む神戸の歴史が刻まれている公園です。王子動物園に全国から人が訪れるのは、動物への魅力にとどまらず王子公園を包み込んでいる地域の心に親しみを感じるからだと思います。今回、示された素案はこうした公園のもっとも大切な部分を削いで、大学を誘致してスタジアムを建設するというものであり、実質的に公園の再整備ではなく破壊行為だと考えます。
- 公園再整備の素案にもかかわらず公園ゾーンが欠落している
本件は王子公園再整備の基本方針(素案)としているにもかかわらず、その内容はスポーツゾーンと動物園ゾーン、大学ゾーン、駐車場、エントランスゾーンで占められおり、肝心な公園としてのゾーンがありません。よって本件素案は王子公園再整備の素案になっていないと考えます。
- 結論
本件再整備基本方針(素案)には整備計画の中身は含まれておらず、敷地を何に利用するのかということと、それら使用のための面積配分が一方的に示されているにすぎない。また、既存施設を廃止する理由も明確に示されていない。神戸市は本件再整備について「グローバル貢献都市を先導する学術・文化・スポーツ拠点の形成」とのコンセプトを掲げ、神戸市が策定した『神戸2025』の一環と位置付けているようですが、現状のまま計画を進めれば人々が長い時間をかけて紡いできた歴史ある公園を破壊し、しいては地域の文化を棄損することになりかねないと考えます。
特に王子動物園は全国でも注目度の高い動物園であり、王子動物園の再整備には全国的な関心が寄せられています。再整備は神戸市の今後の評価に直結すると言っても過言ではありません。現状の素案は公園としての再整備計画の基本方針案とはなっていないことから白紙撤回し、ゼロベースで王子公園の今後について公開された議論にもとづいた上で市は改めて基本方針案を策定すべきと考えます。
- 終わりに
日本の地方自治における価値とは何か?ということについて神戸市はもう一度よく考えるべきだと思います。伝統を重んじ時間をかけて紡いできた人々の営みを大切にする日本という国にふさわしいきめ細やかな地方都市運営をされることを期待しています。