【追跡デジタルニッポン】 富士登山者へ導入が検討されている顔認証スキームとは?

顔認証が今、静かに広がっている。行政と民間企業が連携した実証実験も日本各地で行われている。新型コロナウィルス感染症がデジタル化を後押しし、デジタル化の波が顔認証をより身近なテクノロジーに変えつつある。顔パスと呼ばれ便利さがアピールされる顔認証だが、その仕組みはどうなっているのだろうか?

晩秋に行われたトレッキングツアー

富士山2合目の水ヶ塚駐車場=静岡県裾野市

昨秋、富士山富士宮ルート2合目の水ヶ塚駐車場でトレッキングツアーの参加者を対象にした顔認証の実証実験が行われた。2021年11月6日午前9時過ぎ、富士山頂を眼前にのぞむ水ヶ塚駐車場に大型バスが到着し、トレッキングツアーの参加者たちが次々とバスから降りはじめた。晩秋の富士山麓を楽しもうと親子連れの参加が目立つ。参加者は富士宮市観光協会の企画に応募した人たちで、水ヶ塚駐車場での顔認証実証実験を事前に了解しで参加している。

富士山の静岡県側登山道となる富士宮ルートは毎年、7月10日から9月10日の3カ月間が開通期間。しかし、2020年は新型コロナウィルス感染症の影響により富士山のいずれの登山ルートも閉鎖され富士登山そのものが中止となった。2021年の昨季は登山道が1年ぶりに開通、富士宮ルートではシャトルバスの乗り換え駐車場となる水ヶ塚駐車場や5合目などで静岡県が登山者の健康チェックを実施した。登山者にチェックシートに記入してもらうとともに検温も実施、チェック済みの登山者にはリストバンドを配布して装着して登山をしてもらうことにしたのだ。こうした健康チェックは県が委託した業者によって人手をかけて行われた、県は2022年以降、デジタル技術を活用することで、人手をかけずによりスムーズに、かつ混雑も緩和して富士登山者の健康チェックを行うことを検討し、今回の実証実験が行われることになったのだ。

顔認証…健康チェックはどのように行われているのか?

トレッキングツアー参加者を対象に行われた顔認証実証実験=水ヶ塚駐車場

水ヶ塚駐車場に設置された簡易テントの中にはタブレットが置かれ、ツアー参加者は順番にタブレットに顔を近づけて認証を受けていく。参加者からは「簡単でとてもいい」「難しいやりとりもなくスムーズ」など歓迎する声が聞かれた。しかし、取材をしていてよくわからなかったのは何をチェックしているのか?という極めて基本的なことだった。人が行う健康チェックでは、その場で体温を測り、顔色を見て体調に問題がないか聞くこともできる。少しでも異常があれば、その場でさらに処置をして場合によっては登山をあきらめてもらうこともあるかもしれない。しかし、そんなやりとりをしていれば1人の登山者に対して相応の時間がかかってしまう。

一方、顔認証による健康チェックはどうだろうか?タブレットを操作して数十秒もかからずに認証される。しかし、この短い時間にさまざまな健康チェックが行われているのだろうか?事前の取材不足もあって、こんな疑問が湧き上がり顔認証による健康チェックとは何かよくわからなくなってきた。

体温、心拍数…バイタル情報をスマホでチェック

静岡県の担当者に聞くと、タブレットで体温チェックなどの健康チェックは行われていないという。では何をチェックしているのか?静岡県の説明によると、トレッキングツアーの参加者は事前に自身のスマホにアプリをダウンロードし、アプリに自身の個人情報や健康情報、ワクチン接種記録書や参加前72時間以内のPCR検査結果報告書等のデータを顔写真とともに送信して登録しているのだという。そうすると自身の健康・医療データはすべて自身の顔写真に紐づけられる。水ヶ塚駐車場で行われていたのは、健康・医療データが紐付けられている自身の顔写真と実際の自身の顔との照合であり、そこで使われていたのがNECの顔認証テクノロジーだ。健康チェックは登録されたデータなどにより事前にアプリによって行われ、現場ではアプリがチェックしている健康・医療データと紐付けられている顔写真と本人との照合、認証が行われているということなのだ。

アプリ「MySOS」

今回、富士山での実証実験で使われたアプリは、東京・渋谷に本社のある株式会社アルムが開発した健康サポートアプリ「MySOS」。アルムによるとMySOSは自分や家族の健康や医療に関する記録をし、救急時などにスムーズな対応をサポートするアプリだという。MySOSを使うと、健康診断の結果やMRI・CTなどの医療用画像、体温や心拍数、血圧などのバイタル情報をスマホで確認でき、日々の健康管理にも役立てることができるという。また、新型コロナウィルス感染症にも対応、PCR検査のデジタル陰性証明書をMySOSで受け取ることも可能なのだという。

静岡県「観光領域への展開を検討」

富士登山者への導入を見据えて静岡県が行った実証実験は、アルムの健康サポートアプリ「MySOS」とNECの顔認証テクノロジーを組み合わせたデジタル健康チェックの仕組みだったのだ。静岡県は「実証実験の結果を踏まえ、2022年度以降の富士登山時への導入だけでなく、静岡県内の観光領域への展開も検討していく」としており、NECの顔認証とアルムの健康サポートアプリ「MySOS」を組み合わせたデジタルテクノロジーによる健康チェックを広く活用していく方針を示している。

(三好達也)

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