東南アジアに点在している犯罪拠点。それら拠点には刑務所のように壁で覆われた施設もあり人身売買やサイバー犯罪などを行う組織によって連れてこられた多くの人たちが監禁されている。その中には日本人もいるようだ。パソコンやスマホに日々送られてくる詐欺メールはもしかしたら東南アジアのどこかの犯罪拠点の施設から送信されたものかもしれない。
数十万人がサイバー犯罪に関与させられている
タイ・ミャンマー国境にあるKKパークと呼ばれる犯罪拠点から多くの外国人が保護される様子が日本のメディアで報道された。また、監禁されていた日本の男子高校生がタイ・ミャンマー国境付近で保護されたとの報道もある。施設で監禁されている者は犯罪を強要され、抵抗すれば電気警棒などによる電気ショックで拷問を受けているという。こうした犯罪拠点が東南アジアには複数あり、日本でしばしば報道されているトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)にかかる事件とつながっている可能性が高い。
2023年に発表された国連人権高等弁務官事務所の報告書によると、東南アジアでは数十万人が組織犯罪グループによって恋愛投資詐欺や暗号通貨詐欺、違法賭博などのオンライン犯罪に強制的に関与させられているという。情報筋によるとミャンマー全土で少なくとも12万人、カンボジアで10万人、ラオス、フィリピン、タイなどでも少なくとも数万人がオンライン詐欺に関与しており、組織犯罪グループは年間数十億ドルに上る違法収益を得ているという。
中国で流行の暗号資産投資詐欺「殺猪盤」
中国では殺猪盤(さっちょんばん Sha Zhu Pan)と呼ばれる暗号資産投資詐欺がかねてより流行している。ソーシャルメディアを使って他人とネット上で関係を構築し、言葉巧みに暗号資産投資をもちかけて多額の借金をさせるなどした挙句、最終的に被害者からすべてを奪ってしまう犯罪だ。ソーシャルエンジニアのテクニックを駆使し恋愛感情につけ入るロマンス詐欺の要素も含まれているようだ。すべてを失った被害者は施設に送り込まれて今度はオンライン詐欺の担い手として使役され、犯罪グループは膨大な収益を得ているのだ。東南アジアにオンライン詐欺等の犯罪拠点が構築されている背景には中国におけるオンライン詐欺とその担い手である犯罪グループの存在があるとみられ、米平和研究所の報告書は「過去10年間、東南アジアは中国から発信される国際犯罪ネットワークの温床になっている」と指摘している。実際、報道されたタイ・ミャンマー国境のKKパークで保護された人々の多くは中国人だった。
そして、こうしたオンライン詐欺を支えているのがHuione Guarantee (汇旺担保) というテレグラムペースのオンラインマーケットだ。2022年に閉鎖されたダークウェブのマーケットHydra(ヒドラ)を上回る規模の犯罪マーケットに成長しているという。イギリスを拠点とするブロックチェーン分析企業のElliptic のレポートによると、Huione Guaranteeは2021年に設立され、不動産や車など合法的な商品のマーケットプレイスとして知られていたが、現在提供されている商品やサービスの大部分は、オンライン詐欺業者をターゲットにしている。オンライン詐欺を行うためのサイト制作からターゲットになる個人のデータ、AIで顔を変えるソフトウェアなどオンライン詐欺を行うための様々なツールが売買されているほか、施設での拷問用の機器や資金洗浄のサービスなど犯罪者が必要とするあらゆる用具やサービスが売買されており、オンライン詐欺の犯罪グループの拡大に伴ってHuione Guaranteeも成長を続けている。Elliptic のレポートによるとその取引総額は少なくとも240億ドルにのぼっているという。
急成長の「犯罪マーケット」にカンボジア首相の親族が関与か
Elliptic のレポートによると、Huione Guaranteeはカンボジアの大手複合企業Huione Groupによって運営されており、同グループは決済や外国為替事業を行っている Huione Pay を運営しており保険や航空会社、不動産業も展開している企業だという。Huione Payの取締役の1人はカンボジアの首相、フン・マネット氏の従兄弟といわれており、カンボジアの支配層とつながりのある企業とみられる。カンボジア首相の従兄弟でHuione Payの取締役とされる人物は中国の犯罪グループや詐欺グループとの関係が指摘されており、またHuione Payの一部であるHuione International Paymentsは、犯罪者グループがオンライン詐欺によって得た違法収益を資金洗浄するサービスに関与している疑いがあるという。
Huione Guaranteeを介して行われている暗号資産取引や資金洗浄では、暗号資産の盗難を繰り返している北朝鮮のハッカーグループ、ラザルスと関係しているとみられるウォレットでの取引も確認されているようなので、東南アジアに点在している犯罪拠点の施設の背景には、中国の投資詐欺の犯罪グループやカンボジアの支配層、さらに北朝鮮ハッカーの影がちらついているのだ。
■出典
https://www.usip.org/programs/transnational-organized-crime-southeast-asia