ハマスによる無差別テロを契機に混迷の度を増している中東。ハマス壊滅を掲げるイスラエルはガザへの攻撃を熾烈化させている。そんな国際社会の現状に対して日本の地方の町で声をあげている人たちがいる。(佐々木浩)
今年6月下旬のある日、静岡市の小さな劇場でささやかな朗読ライブが開催されていた。客席は暗く聴衆の様子はわからないがホールには厳粛な空気が漂う。スポットライトが照らされた檀上から透き通った声がホールに響く。「1948年から、私たちは終わりのない深淵に落ち続け、再び上昇、構築、そして変革の旅を始めます」-朗読しているのは浜松市を拠点に活動している劇団「迷子の遊園地」の劇団員らで、ガザの市民の手記を読み上げているのだ。この手記はガザモノローグと呼ばれ、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区に拠点を置くアシュタール劇場(Ashtar Theatre)が2010年に初めて発表し、30か国以上で上演された。手記は2014年、2023年も発表され、現在も新たな手記が追加されてネット上で公開されている。「女優を夢見る少女の手記や兄弟を思う姉の手記などいろいろなことが綴られていますが、その思いは僕たちが抱く思いと何も違わない。彼らには僕たちと同じ選択肢があるべきなのに、今、その選択肢は奪われている。ガザで今、起きていることは決して他人事ではないんだということを感じてもらえたら嬉しい」と劇団「迷子の遊園地」を主宰する藤田ヒロシさんは話した。
ガザについて少し前までは藤田さんも一般的な認識しか持ち合わせていなかったという。しかし、そんな認識を吹き飛ばしたのは今年2月にサイマル演劇団を主宰する赤井康弘さんが開催したガザモノローグの朗読ライブだった。藤田さんはこのライブを後日ネット鑑賞し、以来、ガザモノローグの成り立ちやガザの現状に関する書籍を読み漁り、いてもたってもいられない気持ちになったという。そして、藤田さんは赤井さんに連絡し、ガザモノローグのテキストを用いた朗読ライブを行う許可をもらい自らがガザモノローグを伝える取り組みをスタートさせた。
ガザモノローグの朗読ライブの翌日、静岡県の磐田市ではドキュメンタリー映画の鑑賞会が開かれていた。映画のタイトルは『ガザ 素顔の日常』。アイルランドのガリー・キーンとアンドリュー・マコーネルが監督したガザの日常を描いた2019年のドキュメンタリー映画だ。今日の状況に至る以前のガザの姿をとらえた作品だが、ガザを取り巻く根深い問題が映像から浮かび上がる。「イスラエル軍によるガザ侵攻や、ロシア軍によるウクライナ侵攻は、私たちにとっては遠い出来事のように感じられますが、実は、私たちは、経済や物流など、様々な面で影響を受けている。ひとりひとりが“地球市民”として、どう生きていくべきか、何ができるのかを常に頭の片隅に置いて生きていけば地球全体がもっと良くなるのではないか。この映画がそんなことを考えるきっかけになってくれたら嬉しい」と上映会を企画した山田龍次さんは話した。上映会を開催した経緯について山田さんは、「昨年11月に浜松市で上映された『ガザ 素顔の日常』を鑑賞し、ぜひ磐田市でも上映したいと思い取り組んできました」と話した。
『ガザ 素顔の日常』は日本ではユナイテッドピープル株式会社(福岡県、関根健次代表)が配給している。ユナイテッドピープルは戦争、飢餓貧困、気候変動など世界の課題をテーマに創業された企業だという。主にドキュメンタリー映画の制作や配給を行っている。「cinemo」という上映会開催のプラットフォームを構築しており、このプラットフォームを利用すればユナイテッドピープルが配給する映画をだれでも上映することができるのだ。ユナイテッドピープルによると、8月5日(月)~8月11日(日)に鹿児島県のガーデンズシネマ、8月9日(金)~8月15日(木)に東京都のキネカ大森、月火曜を除く9月21日(土)~10月6日(日)に神奈川県のシネコヤで『ガザ 素顔の日常』の上映会が開催される。