ロシアの通貨ルーブルにリンクするトークンA7A5が制裁回避の抜け道になっているとして米英当局がA7A5に関連する企業や人物、さらにA7A5が流通している暗号資産取引所Grinexやその運営会社等を制裁指定した。
ブロックチェーン調査会社のチェイナリシスなどによると、A7A5はTronおよびEthereumブロックチェーン上で取引されるロシアのルーブルに紐づいているトークンで、ロシア企業のA7 とロシア国営銀行のプロムスビャズバンク(PSB)によって今年1月にキルギス共和国で発行された。A7 は制裁下でルーブルの国境を越えた送金のために2024年に設立されたロシアの企業で今年5月に英金融当局が制裁指定している企業。チェイナリシスによると、今年7月末までのA7A5による取引量は11億7000万ドル以上にのぼっており、その取引量は今年3月中旬のGarantexの閉鎖とそれに続くGrinexの立ち上げ、4月初旬のキルギスの取引所Meerの立ち上げ、さらに6月中旬にロシアの取引所のBitpapaがA7A5の取り扱いを開始したことを受けて急増しているという。
米財務省によると、Garantexは2019年後半に設立された暗号資産取引所で、エストニアで登録されたが業務の実態はモスクワとサンクトぺテルブルグにあるという。取引のうち1億ドル以上はダークネット市場やランサムウェアグループなどのサイバー犯罪に関係するもので、ContiやBlackBasta、LockBit、NetWalkerなどロシアに関わるサイバー犯罪グループによる攻撃の収益がGarantexに流れ込んでいたようだ。2022年にエストニアがGarantexの登録を抹消、アメリカが制裁指定し、さらに今年3月にはアメリカ、ドイツ、フィンランド当局が連携してGarantexのドメインとサーバーを押収して違法資金を凍結したことから閉鎖された。
チェイナリシスによると、Grinexはキルギスで登録されている暗号資産取引所で、Garantex閉鎖後に設立され、Garantexから資金を送金していたユーザーがGarantexの閉鎖後にGrinexを通じて出金処理をおこなっているという。また、イギリス等により凍結されたA7A5トークンはキルギスの企業Old Vectorを介してGarantexからGrinexに移動されたという。よってGrinexはGarantexを引き継いだ暗号資産取引所との見方がされており、米英金融当局も同様の見解であることは今回、Grinexが制裁指定されたことで明らかだ。実際、A7A5トークンによる取引がもっとも多いのはGrinexだという。
ルーブルに結び付いたA7A5トークンが、ルーブル通貨圏内の取引でのみ使われているのであれば制裁対象域内での限定的な取引にとどまるわけだが、ロシアはA7A5トークンによって制裁を回避して国境を越えたルーブルの拡大を狙っているとみられ、米英の制裁の意図もそこにあるとみられる。チェイナリシスによると、A7A5 DX(分散取引所)がA7A5と主流のステーブルコイン間のスワップを可能にしているという。A7A5 DXによってA7AT5トークンが拡大している実態があるようだ。
■出典・参考
https://www.chainalysis.com/blog/a7a5-grinex-russian-crypto-economy-ofac-sanctions-august-2025/
https://home.treasury.gov/news/press-releases/sb0225
https://www.info-res.org/reports/a7a5-circumventing-sanctions-with-stablecoin-cryptocurrency/