簡易投稿サイトX(旧ツイッター)に「孫正義が生放送でうっかり発言 彼はこれからどうなるのか?」と記された投稿が流れている。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏がスマホを掲げた画像のついたそのツイートは2025年3月7日に投稿されたようだ。
この投稿はfoodeclet.comのプロモーションとしてXに流れていたが、クリックするとgooニュースのロゴがついたページが開き、「日本銀行が生放送での発言で孫正義さんを提訴」とタイトルの付いた読売新聞のロゴのある記事が表れた。見たところgooニュースサイトの読売新聞の記事そのものだが、記事のドメインはelegantweddingplans.sbsとなっており、foodeclet.com でもgooニュースでもない虚偽の記事であることは明らかだ。記事は、孫氏とキャスターの小川彩佳氏との対談として書かれており、AIによって自動化され利益が確実に得られるとうたう暗号通貨取引に誘導する内容になっている。


小川氏と孫氏との対談は実際にTBSのニュース番組、news23で2019年6月に放送されているが、記事は実際の対談とは異なる内容となっていて、映像を悪用したとみられる画像が記事中で使われている。TBSは、この虚偽の対談記事に対する検証番組を制作しており、YouTubeで2024年3月20日に配信している。TBSの検証番組によると、画像の一部は加工されているという。また実際に虚偽の記事が誘導する登録先に登録し、その後の一部始終を報じている。たどたどしい日本語を話す女性から電話がかかってきて、口座を開設するとAIソフトが提供されるとの説明がなされ、虚偽の記事について質すと「そんな話は初めて」などと話される。スイスの本社に問い合わせることを促され、小川氏自身がスイス本社という連絡先に電話をすると、CEOなる男性から「なりすましの詐欺だ」などと言われ、その後、最初の女性に改めて連絡したものの電話はすでにかからない状態だった。TBSの検証番組では記事の削除要請をしているとし、また、読売新聞もSNSの運営会社に対して著作権が侵害されていることを通報し削除を求めているとのことだが、検証番組から1年経った現在も公然と虚偽記事はSNSで拡散されている状況なので通報による効果はみられないようだ。
この記事にとどまらずSNSで誘導する虚偽の記事は複数あり、いずれも実在する芸能人や著名人の名前や画像、テレビ番組名を無断で使っているばかりか、既存のメディアを装って配信されている。著名人になりすました詐欺広告については堀江貴文氏や前沢友作氏が対策の必要性を訴えたことで注目されたが、フェイスブックばかりがクローズアップされた感がある。しかし、実際にはフェイスブックにとどまらずさまざまなSNSを使って詐欺広告は拡散されており、YouTube上では2021年には「1日1本動画を見るだけで毎日お金が振り込まれる!」「月50万円が狙える方法をLINE登録者限定で公開!」などとうたった暗号資産がらみの詐欺とみられる広告動画が頻繁に流れていた。これらは動画だったが、詐欺記事は著名人の名前や画像を使って関心を引かせ、正当なニュースメディアを装って配信しSNSを使って拡散されており、YouTubeの詐欺広告動画よりもさらに巧妙かつ悪質になっている。ニュース記事の偽装は、詐欺広告にとどまらず政治的な宣伝や国家間の争いに悪用されて社会の混乱を招くリスクがある。悪用されたメディアは単に記事の削除を求めるという生温い対応ではなく、なぜそのような虚偽記事がネットに掲載され拡散されているのか調査をして厳格に対処する必要があるだろう。
■参考