トヨタが富士山麓で取り組む実証都市「ウーブン・シティ」とは何か?

 トヨタが静岡県裾野市で取り組んでいる実証都市「ウ―ブン・シティ」。2020年1月にアメリカ・ラスベガスで開催された世界最大級の技術見本市CES2020で豊田章男社長が構想を表明したものだが、その具体的な姿はなおベールに包まれている。ウ―ブン・シティとは何か?

米シリコンバレーAI研究所の日本拠点を再編


裾野市が開催した「これからのまちづくり」説明会で住民らに説明を行うジェームス・カフナー氏=2021年10月5日、裾野市役所
ウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社のオフィスのある日本橋室町三井タワー=東京都中央区

 今秋、静岡県裾野市の裾野市役所で「これからのまちづくり」説明会なる住民説明会が市によって開催された。高村兼二市長とともに住民らに説明を行ったのはウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社代表取締役CEOのジェームス・カフナー氏。ウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社はJR東京駅に近い日本橋室町の日本橋室町三井タワーを拠点とし、同所にはグループ会社のウ―ブン・コア株式会社、ウ―ブン・アルファ株式会社も所在している。これら企業はいずれも2021年1月に設立されたものだ。

 トヨタは2016年1月に人工知能技術の研究・開発を目的とした研究所、トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)を設立、TRIはアメリカ・シリコンバレーを拠点にしている。TRI 設立から2年後の2018年3月にはTRIの日本における拠点としてトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)をトヨタ自動車(90%)、デンソー(5%)、アイシン精機(5%)の共同出資で設立、TRI-ADは自動運転技術の先行開発において3社が共同で技術開発を行うことを目的とした。アメリカ・シリコンバレーのTRIで研究・開発を行っている人工知能技術を自動運転の実用化に向けた開発へとつなげていくのがTRI-ADの役割だとみられる。

 しかし、2021年1月にTRI-ADは再編され、TRI-ADを継承する形で誕生したのがウーブン・プラネット・ホールディングスを持ち株会社とするウーブングループだ。グループ企業として事業会社のウーブン・コアとウーブン・アルファ、そして投資ファンドのウーブン・キャピタルがある。ウーブン・コアが自動運転技術の開発・実装を、ウーブン・アルファがウーブン・シティを手がけるとされるが、ウーブン・シティも含めてそもそもウーブンという言葉にはどのような意味があるのだろうか?ウーブンとは英語のwovenでありweave(織る)の過去分詞となる。ウーブン・シティを日本語に訳すと織られた町だ。トヨタの原点は、豊田佐吉が大正13(1924)年に発明した自動織機にある。  

様々なテクノロジーによる価値の創造

 ウーブンという言葉には、豊田自動織機が機織りを完全自動化させたことよって生活や社会を豊かにしたように、さまざまなテクノロジーを織り込んでいくことで価値や生活、社会を創造していくとの思いが込められている。つまりウーブンとは、テクノロジーを核としたトヨタの新たな企業ブランド、理念、戦略を表していると思われる。そして、ウーブン・シティとはそれを具体化して実証する、ある意味、クルマで言えば、その性能を実証するためのテストコースのような存在と言えるのかもしれない。

2020年12月に閉鎖された東富士工場=静岡県裾野市

 トヨタが富士山麓に約200万㎡の土地を取得したのは1965年6月のことだった。本格的なハイウェー時代に対応するため自動車に要求される高速テストコースと実験研究施設をあわせ持つ工場用地として取得したという。1966年11月には自動車性能試験場、1967年3月には乗用車組立工場が完成してトヨタ自動車東日本の前身、関東自動車工業の東富士工場として稼働を開始した。1971年には東日本工場が立地する裾野町が市制に移行、東富士工場は地域の雇用を生み、地域経済とも深く結びついていった。しかし、半世紀を経て東富士工場の機能はトヨタ東日本の工場再編により東北3工場に移行することとなり東富士工場は2020年12月に閉鎖、その跡地約70.8万㎡に実証都市「ウーブン・シティ」が建設されることになったのだ。

きっかけは2011年の東日本大震災 

 今秋、裾野市で開催された「これからのまちづくり説明会」にゲスト参加したウーブン・プラネット・ホールディングス株式会社代表取締役CEOのジェームス・カフナー氏はこう話している。

 「なぜウーブン・シティを建設しようと考えたのか?きっかけとなるのは2011年3月11日に発生した東日本大震災です。2万人以上の方が命を失いました。この大震災をきっかけにトヨタ自動車は東北に生産を移管し、東北地域をサポートすることを決断しました。TMEJ(トヨタ自動車東日本株式会社)東富士工場で培われてきた技術や思いを東北にしっかりと伝承しました。そしてウーブン・シティは裾野を未来に向けた新しい価値を生み出すことによってこの地域を活性化させていきたいと考えているんです」

 「ウーブン・シティのコンセプトというのは実際、豊田社長とTMEJの従業員の1人との会話から生まれています。この従業員は豊田社長に対して従業員はいろいろな事情があるので、全員が東北に引っ越して働けるわけではないという話しをしてくれたのです。これは自分のことよりも仲間のことや人の気持ちを第一に考える素晴らしい例だと思います。東富士にはこういっただれかを思うTMEJの歴史が築いてきた歴史があります。ウーブン・シティはさら地の上に出来る街ではありません。こうした人の気持ちをいっしょに考えるTMEJの皆さんが築いてくれた歴史や思いを受け継いで人中心の街つくりを進めてまいります」

 ウーブン・シティ建設の具体的な取り組みは、現在は日本橋室町のオフィスにおいて仮想環境で行われており、その様子はトヨタが発信するメディア、トヨタイムズでも伝えられている。ウーブン・シティでの物流サービスの開発について担当者は「ウ―ブン・シティの地下に物流センターを建設し、居住棟に設置されたスマートポストに郵便物やクリーニングなどを入れれば自動運転ロボットS-Paletteが回収し物流センターに運ぶ。ウーブン・シティでは荷物が地上を飛び交うことは基本的になくなり、日々の生活で生じる雑務を省くことができる」と話している。また、カフナー氏はトヨタイムズのインタビューで「実際の都市をそっくりそのまま仮想空間にコピーした『デジタルツイン』をつくり、実際の街を建設する前に、街全体をシミュレーションする」などと話している。ウーブン・シティへの入居は2025年に開始される予定だという。

■参考

https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31170943.html

https://www.woven-planet.global/jp

https://www.city.susono.shizuoka.jp/soshiki/3/1/8/2/16266.html

https://global.toyota/en/detail/10169760

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01437/101900018/

https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/text/entering_the_automotive_business/chapter1/section4/item2.html

http://www.toyota-ej.co.jp/images/news_pdf/20201210.pdf

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