神戸市が進めようとしている王子公園への大学誘致計画に多くの批判が寄せられている。神戸新聞によると久元喜造市長は「文教地区で誘致にふさわしいエリア。経済波及効果も大きく、市全体の発展につながる」などと述べて意欲を示しているようだが、なぜ公共の場である公園を潰してまで大学を誘致しようとしているのだろうか? まずは神戸市の大学の設置状況を概観してみる。
大学18、短大4、学生数7万1977人
昨年12月22日に公表された文部科学省の令和3年度学校基本調査によれば、神戸市に本部を置いている大学は18、短期大学は4で計22である。18という大学の数は名古屋市と同数で、主要都市では東京23区(100)、京都市(29)に次いで多く、神戸市はすでに国内でも有数の大学が設置されている自治体だといえる。つまり王子公園再整備計画とは、市内に多くの大学がある神戸市がさらに大学を誘致しようとしている取り組みだということを認識する必要があるだろう。ちなみに神戸市の短期大学数は他の主要都市並みで、大学と短期大学を合わせた数では東京23区(128)、京都市(37)、名古屋市(24)に次ぐ22となり、これは札幌市、福岡市と同数である。
では、大学や短期大学の学生数はどうだろうか? 令和3年度学校基本調査によると神戸市にある大学の学生数は計7万716人、短期大学の学生数は計1261人で大学と短期大学を合わせた学生数は7万1977人。これは主要都市では東京23区(55万9502人)、京都市(14万8218人)、名古屋市(10万5565人)、横浜市(8万5020人)、福岡市(7万6429人)に次ぐ6番目の数である。
ここで少し注目したいのは、神戸市は大学の数では名古屋市と同数の3番目であるが、短期大学を含めた数では名古屋よりも少なく札幌市や福岡市と同数となり、学生数になると福岡よりも少なくなる状況がある。また人口に学生が占める割合を見ると神戸市は5%である。人口に占める学生の割合は京都市が10%と突出しており、東京23区は大学の数や学生数は多いものの人口比では6%にとどまり、その後に仙台市、名古屋市、神戸市、福岡市がいずれも5%と続いている。福岡市は大学の数では神戸市よりやや少ないものの短期大学を合わせた数では同数となり、学生数では神戸を上回る状況である。
兵庫県内の大学、学生は神戸市に集中
また、兵庫県全体で見ると大学数は36で、神戸市は18であるので兵庫県の大学の半分が神戸市にある状況だ。また、大学の学生数でも兵庫県は約12万5000人であるので、兵庫県内の大学の学生の半数以上は神戸市の大学の学生ということになり神戸市に大学が集中している実態が伺える。
以上、大学の設置状況を概観してみたが、現状のデータから見る限り神戸市にもっとも近い自治体は福岡市のように思われる。大学設置数は神戸市22(大学18、短期大学4)に対して福岡市22(大学13、短期大学9)、大学と短期大学の学生を合わせた学生数は神戸市が7万1977人に対して福岡市が7万6429人。人口に占める学生の割合はともに5%で、人口は神戸市が約150万、福岡市が約160万人である。久元市長は王子公園の再整備案に関し「市の人口が減少する中、大学を誘致して若者にきてもらうことが必要だ」(読売新聞)と述べたと報道されており、王子公園への大学誘致は人口減少対策でもあるとの認識を示している。
大学が多くても人口減少が止まらない
そこで現状の大学設置状況が神戸市とほぼ同じ福岡市と神戸市の人口について、久元氏が市長に就任した2013(平成25)年から昨年までの人口の推移についてグラフ化したところ、神戸市が約150万4000人から右肩下がりであるのに対して福岡市は約150万人から右肩上がりで人口が増加しており、神戸市を抜いてすでに160万人を超えている状況である。もちろん人口の増減には多くの要因があり、大学の設置状況を反映したものとは言えないものの、福岡市との「差」は神戸市の大学施策が地域に対して有効な結果をもたらしていないのではないかとの疑念を生む。そして王子公園への大学誘致について「経済波及効果も大きく、市全体の発展につながる」という久元市長の主張についてもただちに頷けない状況である。
福岡市のホームページを見ると、「大学のまち福岡」を掲げ、大学と地域の交流や大学と地域が共生する町づくりなど大学と地域を結ぶ施策に熱心であることが伺える。一方、神戸市が進めようとしている計画は、地域の人たちが現実に利用している多くの施設を廃止し、地域の公共の場となっている王子公園の土地に大学を誘致しようとするものだ。久元市長は「文教地区で誘致にふさわしいエリア。経済波及効果も大きく、市全体の発展につながる」などと述べていると報じられているが、多くの反対の声がある中、このまま計画を進めれば地域との軋轢を生み、禍根を残すことは必至だ。経済波及効果や市全体の発展につながるどころか、神戸市が今後衰退していく契機にもなりかねないリスクを孕んでいると考える。さらに大学誘致は神戸市という一つの自治体にとどまらず日本の教育施策や教育の機会均等とも関わることであるから、神戸市がどこまで多角的に物事を考えているのか自治体としての見識、力量が問われている事案だと言える。
■出典
https://www.kobe-np.co.jp/news/kobe/202203/0015125171.shtml
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1419591_00005.htm
https://www.city.kobe.lg.jp/a05822/shise/kekaku/kikakuchosekyoku/college/gakkoichiran.html
https://www.yomiuri.co.jp/local/hyogo/news/20220106-OYTNT50152/
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/sangakurenkei/business/daifuk.html