「自由な形でのデジタル人民元の導入は考えにくい」  静岡県立大学グローバル地域センター特任教授 柯隆氏

新型コロナウィルスの感染拡大はビジネスシーンのデジタル化を加速させ経済はサイバー空間とより密接になりつつある。その経済分野で日本と深く結びついている中国。国交回復から50周年となる中国経済の現況について東京財団政策研究所主席研究員で静岡県立大学グローバル地域センター特任教授の柯隆(か・りゅう)氏にメールで聞いた。

【柯隆(か・りゅう)】1963年、中華人民共和国・江蘇省南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)。長銀総合研究所国際調査部研究員(98年まで)。98~2006年、富士通総研経済研究所主任研究員、06年より同主席研究員を経て、現在、東京財団政策研究所主席研究員、静岡県立大学グローバル地域センター特任教授。著書に『「ネオ・チャイナリスク」研究』(慶應義塾大学出版会)、『中国「強国復権」の条件 「一帯一路の大望とリスク」』(慶應義塾大学出版会)など。

「デジタル人民元の実験はかなり長期にわたる」

――人民元が国際決済で日本円を抜いて世界第4位になったことが報じられました。どのように評価されますか?

柯隆氏 中国は国際貿易の規模が世界一ですから、人民元の決済が進むのは当然のことだと思います。しかし、それでも人民元決済は金額的には3%未満(SWIFT)にすぎない。今後もっと拡大すると思われますが、ドルにとって代わるほどの実力はないでしょう。

――北京五輪ではデジタル人民元の実験も行われたようですが、デジタル人民元はいつ正式に発効されるのでしょうか?

柯隆氏 何をもって正式発効とみるかということですが、現在の実験はかなり長期にわたると考えたほうがいいと思います。管理されたデジタル人民元の導入になりますから。完全に自由な形でのデジタル人民元の導入は考えにくい。中国政府もキャピタルフライトなどの不正行為を心配しています。

※【編集部注】キャピタルフライト=投資資金が国外に流出すること。

――デジタル人民元の導入における「管理」とはどのようなことを言われているのでしょうか?

柯隆氏 「管理された」というのは中国政府・人民銀行(中央銀行)はデジタル人民元の発行と関連のデータなどをすべて直接管理するという意味です。

「中国の国内金融システムはまだ脆弱」

――デジタル人民元が導入された場合、中国の経済さらに国際金融にどのような影響を与えるとお考えですか?

柯隆氏 実験しているぐらいなので、金融システムへの影響が心配されています。ただし、先に実験を行い、国際標準を確立したい狙いもある。中国の国内金融システムはまだ脆弱で金融市場も完全に開放されていない。デジタル人民元はあくまでも、中国国内での流通になるだろう。将来、金融市場が開放されれば、デジタル人民元は海外でも流通する可能性が出てくる。

――中国の金融システムは脆弱だというお話しですが、具体的にどのような点が脆弱なのか教えてください。

柯隆氏 中国の金融機関、とりわけ銀行のほとんどは国有銀行であります。競争力はもとより、審査機能も弱く、国有企業への融資で常に大量の不良債権が生まれる体質になっています。さらに国有銀行の収益構造は主に利ザヤ(貸出金利-預金金利)に頼っており、手数料業務に弱い。したがって、不動産バブルが崩壊した場合、あるいは大規模な資本逃避が起きた場合、金融危機に陥りやすい。

――国内向けに通貨をデジタル化する意図はどのようなことでしょうか?

デジタル人民元のデータはすべて管理される?
写真は中国人民銀行本部
=出典元: humphery / Shutterstock.com

柯隆氏 そもそも通貨デジタル化のメリットは決済の利便性と金融機関の設備投資を省くことができることなどがあげられる。中国はデジタル人民元の実験を急いでいるのはこの二つのポイントに加え、ビッグデータによる通貨の流れを監視しそれに纏わる犯罪を防ぐためだといわれています。さらに、デジタル人民元が国際標準になれれば、人民元の国際化にも寄与できます。

――マイニングを禁止するなど中国はサイバー空間の規制強化に乗り出している印象があります。これはデジタル人民元に関連しているのでしょうか?

柯隆氏 ブロックチェーンの技術は未熟で、中国政府は管理されていないデジタル通貨の流通やマイニングなどは認めない姿勢です。今行っているのは中央銀行・政府による管理強化です。

民営企業が金融に参入することは許されない

――アントの上場が延期されました。当局の関与が強まっているのではないですか?

柯隆氏 もともとアリババはECを専門に行う会社でしたが、スマホ決済に続いて、ネット金融にも手を出そうとしたから、政府に目を付けられ、締め付けられているのです。中国では金融は国家の独占事業であって、アリババのような民営企業が金融に参入することは許されないのです。

――2021年の第3四半期以降、中国経済は鈍化傾向にあります。その原因をどのようにお考えですか?

柯隆氏 景気減速の原因としては、ゼロコロナ政策や有効な景気対策が行われていないこと、不動産バブルが崩壊しつつあることや米中対立によるサプライチェーンの再編などの要因が考えられます。

――一帯一路や今年1月に発効したRCEPは日本経済にどのような影響や変化をもたらすとお考えですか?

柯隆氏 一帯一路は中国の景気減速によりいくらかダウンサイズすると思います。安部政権のときに第三国で協力する意思を表明しましたが、本格的に始動していません。RCEPはアメリカが参加していない東アジアの緩やかな連携協定でありますから、貿易の自由化という意味では、日本企業にとってプラスになると思います。

――日本の経済安全保障への取り組みが日中の経済関係に及ぼす影響についてどのようにお考えですか?

柯隆氏 経済安全保障は注目を集めています。その背景には米中対立と中国の技術覇権に対する懸念があります。半導体など安全保障にかかわるハイテク技術についてG7を中心に先進国が結束を強めている。その枠組みは経済安全保障です。

「日本の戦略が問われている

――現在、静岡県立大学グローバル地域センターの特任教授を務めていらっしゃいます。静岡県の経済と中国経済との関わりについて注目されている点があれば教えてください。

柯隆氏 静岡はモノづくりが盛んな県ですが、製品・商品・技術をプロモートすることにもっと力を入れるべきだと思います。技術が開発され、製品も作れる。しかし、売り上げを実現できていない。中小企業の多くは販売の力が弱いため、県を中心にプロモーションを推進すべきです。

――最後に日中の経済関係の今後について提言がありましたらお願いします。

柯隆氏 今年は国交正常化50周年。これからの50年を展望する前に、これまでの歩みをまず振り返って反省すべき点をきちんと反省したほうがいい。日中友好を目指して正常化した日中両国関係はこれまでの50年間、決して順風満帆ではなかった。今になって、日本では、対中国民感情が予想以上に悪化している。とくに、これからの国際社会はG7対中露というように二分される可能性がある。日本は安全保障についてアメリカに依存しているが、経済は中国に頼っている。日本の戦略が問われています。

(編集部)

※トップ画像=出典元: helloabc / Shutterstock.com

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