【昨今の企業倒産事情】粉飾決算が発覚して倒産するケースが増えています

帝国データバンク・情報統括部課長 内藤修氏

「なぜ倒産 運命の分かれ道」(講談社+α新書)という本が出版された。著者は帝国データバンク(東京都港区)の情報統括部。2021(令和3)年6月から2024(令和6)年9月までの間に倒産した25社の解説のほか、東京地裁から破産手続き開始決定を受けてメディアを賑わせている家電メーカー、船井電機(大阪府大東市)の現地ルポも収録されている。昨今の企業倒産の状況について同部情報編集課長の内藤修氏に読み解いてもらった。

コロナ禍で抑制されていた倒産が再び増加

今年1月に講談社+α新書から出版された「なぜ倒産 運命の分かれ道」

帝国データバンクでは帝国ニュースという日刊の情報紙を発行して会員企業に届けているのですが、「なぜ倒産 運命の分かれ道」の本の内容は帝国ニュースに掲載した倒産ルポの中から厳選した記事を編集して一冊にまとめたものです。これまでに「倒産の前兆 30社の悲劇に学ぶ失敗の法則」(2019年、SB新書)、「コロナ倒産の真相」(2021年、日経プレミアムシリーズ)を出していまして、それ以降の2021年6月からアフターコロナにかけての時期の倒産記事を書籍化したものです。情報統括部は帝国データバンクの中で倒産企業と倒産しそうな企業の情報収集、取材、マクロ分析を行っている部署で、レポートの発信やメディア向けの発信も行っています。

企業倒産は2020(令和2)年に前年比マイナス6.5%(7809件)と減少に転じ、2021(令和3)年は前年比マイナス23%(6015件)と大幅に減ったのですが、2022(令和4)年は前年比プラス6.0%(6376件)と増加に転じ2023(令和5)年は前年比プラス33.3%(8497件)と大幅に増えて去年も16.5%増の9901件と増加傾向にあります。倒産に至る最近の特徴としては、粉飾決算が発覚して倒産するケースが増えています。本の中で「長年の粉飾決算 会社カードを使い込んだ社長の末路」(P21)や「地元に愛されたベーカリーの『粉飾決算』」(P37)、「創業150年の名門企業が隠し通した架空売上」(P198)、「多数の連鎖倒産招いた『架空・循環』取引の誘惑」(P209)で紹介しているケースです。いい会社だと思われていた企業が実際にはそうではなく、長年にわたり粉飾決算を続けて金融機関や取引先をだまし続けていた。それが発覚し、その後、短期間で倒産するケースが目立っています。業界を問わず一定の信用や業歴が長い企業も例外ではありません。金融機関が問題のない正常な会社と考えていた企業が実は違っていた。企業が粉飾を告白して明るみに出たケースもありますし、金融機関が細かく財務調査をして明らかになったケースもあります。

ゼロゼロ融資などの支援効果が薄くなり

年別倒産件数の推移=帝国データバンク「全国企業倒産集計」より転載

2020年、2021年と倒産が減ったのはゼロゼロ融資など国のコロナ支援策によって倒産が抑制されたためで歴史的に見てもかなり低い水準まで倒産は減りました。コロナ直前の2019年は倒産がちょっと増えていまして、我々は2019年から2020年にかけて倒産は増えていくという見通しを立てていたのですが、新型コロナウィルスの感染拡大で事態は一変し中小企業を中心にした政府の資金繰り支援策で企業倒産は抑制され2020年と2021年は倒産件数が大幅に減ったのです。しかし、2022年からゼロゼロ融資の資金繰り支援効果、企業の下支え効果がだんだん薄れてくるとまた増加に転じて2023年は33.3%の大幅な増加となっています。ゼロゼロ融資などの企業支援策によって資金繰りが一時的に緩和され、その結果、粉飾も表面化することはなかったのですが、時間が経つにつれて資金がだんだんなくなり、金融機関に追加支援を仰がないと立ちいかなくなる企業が増えてきた。追加支援を金融機関に要請したタイミングで、粉飾を会社が告白するケースもあれば、追加支援のために金融機関が会社の内情を調べて粉飾がわかった、この2つのケースが増えてきています。粉飾決算が発覚すると金融機関としても継続的に取引はできないので、短期間で倒産に追い込まれていくというパターンです。

ウクライナ紛争による物価高が追い打ち

2022年から倒産が増えたもう一つの要因として物価高があります。2022年2月にロシアとウクライナの紛争が起き、国内でも円安による物価高が顕著になりました。建設資材や食材、燃料費などの価格が上昇してゼロゼロ融資の資金がショートしあえいでいる企業を直撃しました。最近の倒産件数の1割程度は物価高の影響を少なからず受けた末の倒産だと言えると思います。ただ、建設業については物価高にとどまらず、人手不足を要因とする倒産も増えています。時間外労働の上限規制の対象に建設業がなったことで、人手確保のための同業者間競争が激しくなり、人手を確保できなくて倒産するとか、人手を確保するために賃上げしたものの賃上げしたことで経営が立ちいかなくなって倒産に至るケースが増えています。ゼロゼロ融資の返済負担がどの業種にもベースにあって、それに加えて2022年前半くらいから物価高とか人手不足とか企業にとって非常に厳しい外部環境があり、その状況が今も続いていることが現在の倒産の背景にあります。

昨今の倒産は負債が5000万円未満の倒産が6割を占めていて、4社に3社は負債が数千万円に満たない規模での倒産てす。つまり倒産の大部分は中小企業だということです。昨年1年間を見ても負債が100億円を超えた倒産は10件にとどまっています。リーマンショックのころと比べれば大規模な倒産は抑えられている状況です。日本の年間の倒産の負債総額はここ十年1~2兆円なのですが、リーマンショックの時は2008(平成20)年が11兆円、2009(平成21)年、2010(平成22)年も6兆円程度で、当時の倒産と比べると今日の倒産は金額的なインパクトが大きく異なります。

リーマンの時はマンションデベロッパーなどがバタバタつぶれて1社で数千億円規模の大きい倒産が相次ぎました、今はそのような状況はないですが、今後を見ると追加利上げがはじまっている中で、一番影響を受けやすい不動産業への影響が出てくるでしょう。不動産の倒産が増えてくると負債額も少しずつ増えてくる可能性があります。負債額が増えると不良債権を損失として抱える金融機関や企業が増えるので、そうなるとだんだん連鎖的に景気が下降局面に転じるリスクがあると見ています。

内藤修ないとう おさむ。帝国データバンク情報統括部情報編集課長。2000年帝国データバンク入社。本社情報部、産業調査部、東京支社情報部、横浜支店情報部長、情報統括部情報取材課長を経て、2023年10月から現職。入社以来一貫して、個別企業の取材、倒産動向のマクロ分析を手がける。専門は倒産動向分析、企業再生研究。

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