帝国データバンク・情報統括部課長 内藤修氏
企業倒産には悪いイメージがつきまとう。社員の失業や多額の債務、場合によっては経営者の不正が発覚するなどネガティブな話題が尽きない。しかし、時代の変化の中で役割を終えた企業が終焉を迎えることは企業社会の新陳代謝という意味ではむしろポジティブに捉えるべきなのではないか? 企業倒産をどう見るべきか? 引き続き帝国データバンク情報統括部課長の内藤修氏に読み解いてもらった。
日本国内の「ゾンビ企業」は20万社強
ゾンビ企業という言葉があります。この言葉を使うと経営者の方からお叱りを受けることもあるのですが、稼いだ利益で借入金の支払い利息を払えない状態が3年続いた設立10年以上の企業を国際決済銀行がゾンビ企業と定義付けしていて、ちゃんとした用語です。ゾンビ企業か否かを判断する算式があり、その算式にもとづいて帝国データバンクがもっている企業の財務データで推計したところ日本国内にはゾンビ企業がおおむね20万社強あることがわかりました。
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年に1回、ゾンビ企業の統計データをまとめた「『ゾンビ企業』の現状分析」というレポートを出しているのですが、直近のデータにもとづく2023(令和5)年度の国内ゾンビ企業は推計22万8000社、1年間で3万4000社減少しました。コロナ禍の2020(令和2)年度から2022(令和4)年度にかけてゾンビ企業は増え続けていましたが、2023年度は新型コロナが五類に移行し社会経済活動が正常化する中でゾンビ企業はコロナ禍以降初めて減少に転じました。一方で企業の倒産件数は2020年、2021年と減少していましたが、2022年に増加に転じ2023年は前年比プラス33.3%と大幅に増加しました。ゼロゼロ融資などの支援策で延命したゾンビ企業が、2022年以降に増加に転じた倒産や休廃業、私的整理スキームなどを通じて整理されて2023年度は減少に転じたものと考えられます。
日本の企業倒産件数はリーマン・ショック後の2010(平成22)年以降ずっとマイナスで、その背景として当時の亀井静香金融担当大臣によって立法化された金融円滑化法があります。金融円滑化法ができるまでは金融機関の借入金の返済は絶対遅れちゃいけない、なにがなんでも金融機関には返そうという企業が多かったのですが、金融円滑化法ができると企業が金融機関に返済を待って欲しいと言えば、ほぼ100%待ってくれるようになった。その結果、何が起きたかというと、本来、経営的に厳しかった企業が倒産しないまま残り、それはその企業にとってはいいことでしたが、産業全体や日本経済の発展から見て果たして本当によかったのかということは今後、検証が必要だと思います。
地域の中小企業のM&Aを言い始めた国
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こうした状況がこれまであったわけですが、最近の倒産の形には少し変化が見られるようになってきました。「なぜ倒産 運命の分かれ道」(講談社+α新書)の本で「事業譲渡型破産で事業と雇用を維持するという選択」(P229)とのタイトルで紹介しているWebシステム開発などを手がけていた株式会社エー・アンド・ビー・コンピュータの倒産はその典型です。倒産前に他の企業と事業譲渡契約を結び、従業員と事業を他企業に移した上で倒産するという形です。債務が膨らみ返済しきれないので会社は清算するが、事業と従業員は他企業に移して倒産手続きを行う、こういうパターンが少しずつ増えていて、帝国データバンクの調査では同様の倒産は2023年度に33件確認されています。本の中では「必ずしも『倒産=悪』ではなく、こうした手法が活用されることで企業の新陳代謝が促され、今後、国内経済の再生・成長が進むことが期待される」と書かせていただきました。
国は最近、中堅企業とか100億円企業いう言葉を使っていて、地域の中小企業をM&Aなどでグループ化して地域の核となる中堅企業をつくっていこうと言い始めています。そこに地銀とか第二地銀はお金を投入して成長を支えていきましょうと。国はこれまでは淘汰とか新陳代謝といった言葉を極力使ってきませんでしたが、少しずつ変わり始めていると思います。M&Aを使いながら地域経済を牽引する100億円企業、中堅企業を創出していこうと音頭をとっており、今後、倒産のスタイルや倒産に対する社会の捉え方も少しずつ変わっていくかもしれません。
【内藤修】ないとう おさむ。帝国データバンク情報統括部情報編集課長。2000年帝国データバンク入社。本社情報部、産業調査部、東京支社情報部、横浜支店情報部長、情報統括部情報取材課長を経て、2023年10月から現職。入社以来一貫して、個別企業の取材、倒産動向のマクロ分析を手がける。専門は倒産動向分析、企業再生研究。