米財務省の外国資産管理局(OFAC)が暗号資産(仮想通貨)のミキサーであるTornado Cashを制裁リストに追加、オランダ当局はTornado Cashの開発者とみられる29歳の男を逮捕したと発表した。ミキサーのOFAC制裁リスト入りは今年5月に発表したBlender.ioに続いて2例目。
暗号資産の取引はブロックチェーン上にすべて記録されることから取引の流れを監視し追跡することが可能で、それが不正な取引を抑止することにつながると見られてきた。一方で一般の取引が監視され追跡されることはプライバシー保護の観点から問題があるため、暗号資産の取引の匿名性を高めるための技術が開発され、それがミキサーと呼ばれている。ミキサーによって暗号資産取引のプライバシー保護は高まったが、取引が匿名化されることからマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用されている実態が指摘されてきた。
Tornado Cashはイーサリアムのブロックチェーン上で動作し、管理者を介さずに決められた処理が自動的に実行されるスマートコントラクトな匿名化テクノロジーだという。米財務省の外国資産管理局(OFAC)は8月8日、Tornado Cashが70億ドル以上のマネーロンダリングに使用されているとして制裁リストに追加したことを発表、その中には今年3月に起きたベトナムのSky Mavisが開発するNFTゲーム「Axie Infinity」のサイドチェーンであるRonin Networkがハッキングされイーサリアム17万3600EH(5億9460万米ドル)が盗まれた事件や6月のHarmonyの事件、8月のNomadの事件が含まれている。Ronin Networkのハッキングに関してはFBI(米連邦捜査局)が、制裁対象となっている北朝鮮のハッキンググループ、LazarusやAPT38の関与を指摘している。
OFACは「犯罪者を支援するミキサーはアメリカの国家安全に対する脅威。違法目的でのミキサーの使用を引き続き調査し、仮想通貨取引における違法な資金調達リスクに対応していく」としている。
一方、オランダ当局の財政情報調査機関であるFiscal Information and Investigation Service(FIOD)は8月12日、アムステルダムでTornada Cashを開発したとみられる29歳の男を8月10日に逮捕したことを明らかにした。FIODは「分散型イーサリアムのミキシングサービスであるTornado Cashを介して暗号通貨をミキシングすることにより、犯罪的な資金の流れを隠蔽し、マネーロンダリングを促進することに関与した疑いがある」としている。
FIODのFinancial Advanced Cyber Team(FACT)が今年6月よりTornado Cashに対する捜査を行っていた。FIODによると、Tornado Cashは2019年の運用開始以降、10億ドル相当を資金洗浄しているという。Tornado Cashは分散型自律組織(DAO)によりインターネット上に提供されており、DAOは取締役会など階層的な意思決定プロセスを持たず、メンバーの投票にもとづいて決定がくだされ、決定はスマートコントラクトのプラグラミングコードに記録されるという。FIODは、DAOの背後にいる人物がTornada Cashを介した違法な取引によって多額な利益を得ている疑いがあるとしている。
■出典
https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy0916
https://www.fiod.nl/arrest-of-suspected-developer-of-tornado-cash/