イギリスのメディア、The Telegraphは3月30日付けで「Coronavirus testing effort hampered by kits contaminated with Covid-19(Covid-19で汚染された検査キットによって妨げられたコロナウィルス検査への取り組み)」との記事を掲載した。この記事を受けて欧米のメディアは新型コロナウィルスの検査キットがウィルスに汚染されていたと報じている。
プローブとプライマーが汚染していた
The Telegraphの3月30日付けの記事によると、新型コロナウィルスへの対応に関しイギリスの検査能力がアメリカや韓国、その他の主要国と比べて不十分なことから、イギリス政府は検査能力の強化のために民間企業に検査キットを受注していたようだ。ところがサプライヤーの1つ、ルクセンブルクに本部を置く企業、ユーロフィンから「プローブとプライマーと呼ばれる主要なコンポーネントがコロナウィルスで汚染されていたため検査キットの供給が遅れる」とのメールがイギリス政府に届いたという。
同記事は、ユーロフィンは「問題」があったことを認め、他の供給者も同様の問題を被っていると主張したと報じている。The Telegraphの記事は、検査キットの汚染で供給が遅れ、イギリスの検査体制が進まないことを懸念するものとなっているが、ユーロフィンで製造されていた検査キットの主要なコンポーネントがどのような理由で汚染されたのかについては明らかにしていない。
記事ではユーロフィンのスポークスマンのコメントとして「まれに、製品の製造がEurofins Genomicsによって設定された品質または純度の基準を満たさない場合、一部の注文で遅延が発生することがある」「言及された汚染は、それらが陽性反応を生成した後、世界中のいくつかのプローブとプライマー製造者によって観察されている。この問題は適切なクリーニングと生産分離の手順によって容易に解決できる」との発言を掲載するにとどまっている。
米FOXニュースも3月31日付けネット記事で、「Coronavirus tests bound for UK become contaminated with coronavirus(イギリス向け検査キットがコロナウィルスで汚染される)」との見出しでThe Telegraphの記事とほぼ同様の内容を伝えている。
「他国から供給」そして「中国から供給」に
ところで4月1日付けでCDmediaというネットメディアが「Boris Johnson To Pull Out Of Huawei 5G Contract Due To CCP Misinformation」との見出しで新型コロナウィルスに関する中国の誤った情報に怒ったボリス・ジョンソン英首相が中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為)との契約を破棄するかのような記事を掲載した。この記事の中でユーロフィンの検査キットが新型コロナウィルスに汚染されていたことも伝えているのだが、「ユーロフィンは、『汚染したプローブとプライマーは他の国から供給された』と主張している」とThe Telegraphの記事にはない情報も報じている。この一文にはリンクが貼ってあり、リンク先はREPUBRIC WORLDというインドのメディアのニュースサイトの4月1日付け記事「Coronavirus Test Kits To UK Found Contaminated With Virus(イギリス向けのコロナウィルス検査キットが汚染していたことが判明)」となっている。文章にリンクを貼る場合、その文章の根拠や引用元の記事を示すためにリンクを貼るのが一般的だが、CDmediaの記事のリンク先記事にはユーロフィンが「汚染したプローブとプライマーは他の国から供給された」と主張していることを示すものはなく、REPUBRIC WORLDの記事へなぜリンクが貼られているのかよくわからない。
さらに4月6日にはorganiser.orgというメディアが「Britain pulls out of 5G contract with Chinese firm Huawei after test kits were found contaminated with Corona virus」との見出しでCDmediaとほぼ同じ内容の記事を掲載している。ただし、CDmediaの記事では「ユーロフィンは、『汚染したプローブとプライマーは他の国から供給された』と主張している」の部分が「ユーロフィンは、『汚染したプローブとプライマーは中国から供給された』と述べている」となっていて、それに合わせて見出しもコロナウィルスに汚染された検査キットが見つかったことでイギリスがファーウェイとの5G契約を打ち切るかのようなものになっている。これらの記事については、AfricaCheckというメディアチェック機関のサイトで偽情報と認定されているようだが、欧米のニュースをアフリカのメディアチェック機関がチェックするというのもやや不思議である。
米空軍元軍人とヒンドゥーナショナリスト組織
Cdmediaは正式にはcreativedestructionmediaというようで日本語に訳すと創造破壊メディアといったところか。サイトのロゴには「Not Controlled By China(中国にコントロールされない)」との一文をわざわざ入れていることからも反中国を標榜するメディアと思われる。サイト発行人のL ・トッド・ウッド氏のプロフィールを見ると、米空軍の元軍人で退役後はウォール街に関わり、その後、執筆活動をして著作も多数あるようだ。一方、organiser.orgはORGANISERという雑誌と関係するウェブサイトとみられ、ウィキペディアによるとORGANISERはヒンドゥーナショナリストのボランティア組織「Rashtriya Swayamsevak Sangh(RSS)」の関連出版物ということだ。
ユーロフィンの検査キットが新型コロナウィルスに汚染されていたとThe Telegraphが報じ、それがCdmediaによってユーロフィンの検査キットの汚染パーツは他国から供給されたこととなり、organiser.orgによって他国を中国と報じたのが一連の経緯とみられる。そして、4月15日にはアメリカに本部を置き華字新聞を発行する看中国の日本語版ネットニュースが「ジョンソン首相の怒り=輸入検査キット、中共ウイルスが付着 故意か」との記事を掲載、中国から発送される検査キットは新型コロナウィルスに汚染されていると断定的に報じた。この記事はネット上で拡散される一方、フェイク記事との指摘もネットで拡散されている。今のところユーロフィンの検査キット製造過程で発覚した新型コロナウィルスで汚染していたパーツがどこかの国や中国から発送された製品だったことを裏付ける事実はない。一方でThe Telegraphが報じた汚染の事実についてユーロフィンは公式に説明をしていないと思われ、ユーロフィンのサイトにもThe Telegraphなどの欧米メディアが報道した内容に対する説明や見解は見当たらず真相は不透明だ。事実関係の詳細が明らかでないために憶測や推測を呼び、フェイクニュースへと発展する土壌が生まれているのではないだろうか。