静岡・黒俣の太陽光発電建設地 昨秋の台風で県道が崩落していた

昨秋の台風によって現在もあちらこちらの道路が不通になっている静岡市の山間部。県道32号線の通行止め地点から徒歩で黒俣地区の太陽光発電施設の建設現場を訪れると、樹木が伐採されて更地となった現場近くで県道が激しく崩落していた。

伐採された太陽光発電施設建設現場(左)の入口手前の県道が大きく崩落していた=2023年1月、静岡市葵区黒俣

地元「木を切ることで県道が脆弱になる」

太陽光発電施設が建設されている静岡市葵区黒俣地区。現場に至る県道32号線は昨秋の台風15号による路肩崩壊により通行止めになっていた。このため徒歩で現場を訪問すると、樹木が伐採された敷地手前から道路がガードレールごと大きく崩落して無残な状況となっていた。32号線を管理する静岡市葵南道路整備課に聞くと、「台風15号による記録的な大雨によるもの。現在、復旧に努めている」という話しだった。しかし、地元自治会がかつて田辺信宏市長に宛てて出した建設反対の要望書にはこんなことが書かれている。

「県道の基礎になる地盤を固めている山林の木を切ることで、県道の下側を支えている法面の部分が脆弱になる」

「治山工事や法面補強などの道路工事を行わずに計画を進めれば自然災害を助長する危険が伴う」

昨秋の台風15号では静岡県内に線状降水帯が発生して記録的な大雨になった。黒俣の太陽光発電施設建設現場付近の県道崩落は、直接の原因は台風による記録的な大雨であったとしても、地元住民の心配が決して杞憂ではないことを示している。

砂防指定地内行為の許可を出した静岡県

県道36号線の道路下の太陽光発電建設地=2023年1月、静岡市葵区黒俣

黒俣地区をはじめたとした地域が太陽光発電施設の建設に反対する要望書を静岡市長に提出したのは2020(令和2)年6月のことだ。しかし、工事は開始され樹木は伐採されてしまった。どのような経緯で着工に至ったのだろうか?静岡市に聞くと「県が砂防法上の許可を出したので開発が行われることになった」と言う。急峻な黒俣地区は砂防地区に指定されており、同地区で開発行為を行う場合は県の許可が必要になる。静岡県は2021(令和3)年8月に砂防指定地内行為の許可を業者に出し、これを受けて業者は着工に踏み切った。その際、業者は地元の自治会と協定を結んでいる。

近隣住民との連携や調和を図ることを理念に掲げた協定は12条からなり、業者は住民との連携や協議、災害時の対応、行政指導を受けた時の地元への告知、他に事業を譲渡する時は協定も継続されるよう対応を図ることなどを約束している。この協定は、業者と地域、そして静岡県や静岡市も関わって締結に至ったようで、着工直前の2021(令和3)年10月1日に行われた業者による住民説明会を報じている地元新聞の記事では「疑問はあるが、行政が認めている以上、何もできない」と地元の自治会長がコメントしている。

静岡市「業者が違うので一体開発ではない」

2019年8月から稼働している県道36号線の道路上にある太陽光発電施設(右上)=2023年1月、静岡市葵区黒俣

地元は反対したものの県が砂防法上の許可を出し、県と市が業者と住民の間をとりもつ形で協定が締結されて着工に至ったというのがこの間の経緯のようだ。その開発は県道36号線の道路下側の山地約0.9haにソーラーパネルを設置するというもの。実は県道36号線の上側ではすでに約0.7haの樹木が伐採されて太陽光発電施設が建設され2019(令和元)年8月より稼働している。

太陽光発電施設建設にかかる森林の開発については、法改正が行われて今年4月から0.5haを超える開発について都道府県知事の許可が必要になった。しかし、これまでは太陽光発電施設の開発であっても他の開発と同様に1haを超える場合に許可が必要とされてきたので、黒俣の開発は、林地開発許可は必要でなく伐採の届け出のみで行われている。そのためすでに稼働している県道の上側の開発については地元にほとんど知らされることなく工事が進められ、そのことが道路下側の開発に対する不信感へとつながっていった。

県道下側の施設が完成すると、稼働済みの上側0.7haと合わせて県道を挟んで計1.5haにソーラーパネルが並ぶことになる。道路下側の開発が1.5haのうちの0.9haの開発の場合、全体として1haを超える開発案件になるため林地開発許可の対象になる。この点について静岡県に確認したところ、黒俣のある静岡市は政令市であるため林地開発上の権限が静岡市に委譲されているということだった。そのため改めて静岡市に確認すると、「同じ業者で、ある程度時期が同じで、(開発の)目的も同じなら一体開発と判断するが、(黒俣の場合は)業者が違うので1つのものという解釈はしていない」という説明だった。ちなみに静岡県も「一体性については総合的に判断する」としつつ、業者が違う場合や同じ業者でも前の開発が数十年も前のものであれば一体開発とは見なさない、という説明だ。

黒俣の太陽光発電開発は、県道32号線を挟んで計1.5haにのぼるが、県道の下側の開発は上側とは別の業者が開発を行うとして行政は一体開発とはみなしていない。その結果、業者は伐採の届け出だけで樹木を伐採することができた。しかし、伐採をしたところで台風15号が直撃、県道32号線が通行止めになって工事はストップしたままだ。地元からは「だから作るなと言ったのに‥」との声も。また、県道の下側は太陽の光がそれほど当たる場所でもないという。「なぜあそこに太陽光発電をつくるのだろう」と首を傾げる人もいる。地域の不安や防災上の懸念、発電効率への疑問‥‥さまざまなマイナスに思える要素がある。にもかかわらず太陽光発電施設が建設されるとすれば、その目的はなんなのだろうか?

                                                         (編集部)

■参考

太陽光発電施設の隣りに別業者が太陽光発電計画 住民「つながっているのでは?」

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください