【全日本吹奏楽連盟1億5000万円不正受給の謎】東京地裁は和解を勧告か?

「吹奏楽の甲子園」とも言われる全日本吹奏楽コンクールを朝日新聞社とともに主催している一般社団法人 全日本吹奏楽連盟(東京都千代田区、石津谷治法理事長、以下連盟)が約1億5000万円の不正受給を明らかにしたのは2020(令和2)年1月のことだった。この問題のその後についてメディアはまったく報じていないが、連盟は不正受給していたとされる元事務局長らに損害賠償請求訴訟を起こしており現在も東京地裁にて係争中、地裁は和解をすすめているようだ。

連盟が3人を訴えて2年半、長期化する訴訟

全日本吹奏楽連盟が入居しているビル=東京都千代田区三番町

この問題は2020(令和2)年1月27日に当時、連盟理事長で2021(令和3)年12月に亡くなった丸谷明夫氏が会見を開いて明らかにしたもので、報道によると当時の事務局長と事務局次長が2010(平成22)年度から約10年間にわたり二重帳簿をつくるなどして計約1億5000万円を自らの給与に上乗せして不正に受給していたとされるもの。連盟は事務局長と事務局次長の2人を懲戒解雇にし、監査を行っていた監事の税理士は引責辞任した。

連盟は2020(令和2)年3月、解雇した元事務局長と元事務局次長、辞職した元監事の3人に計約1億5000万円の支払いを求めた損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしたが、新型コロナウィルスの影響もあり提訴から2年半以上を経た現在も弁論準備が行われていて長期化している。協議の内容は明らかにされておらず詳細不明だが、関係者によると東京地裁は和解をすすめているとみられ、今後、和解協議へ進むのか注目される。

訴状によると、元事務局長は連盟の事務局長に就任した2010(平成22)年4月から2019(令和元)年12月までの9年9カ月間にわたり毎月の給与に約30~60万円、年2回の賞与にそれぞれ約100~250万円以上を上乗せし、また、元事務局次長は事務局長と同時期に事務局次長に就任し、毎月の給与に約20~30万円、年2回の賞与にそれぞれ約70~150万円以上を上乗せし2人で計約1億5000万円を不正に受給していた。さらに、元監事の税理士は1995(平成7)年に連盟の会計監査を担当する監事に就任し、1999(平成11)年からは連盟の顧問税理士を務めていた。元監事は、元事務局長が作成した不正受給額に相当する金額を事業費等に振り分けた決算報告書を適正とする監査報告書を提出していた。

会報に掲載された「報告書」の中身

訴状通りであれば、元事務局長らは10年近く正規給与より倍も多い金額の給与を受け取り、100万円以上も多い賞与を年2回受け取り続けていたことになる。その間、監事は不正受給分を事業費に付け替えた元事務局長が作成した偽の決算報告書を適正とする監査報告書を提出していたというのだ。連盟は不正受給の発覚を受けて第三者委員会(メンバー非公開)を設置、第三者委員会は2020(令和2)年6月に連盟に報告書を提出し、連盟は第三者委員会の報告を受けて2021年1月の会報「すいそうがく」に「不祥事に対する原因及び再発防止策に関する報告書」を掲載した。

それによると、元事務局長は偽装した決算報告書を理事会および総会に提出し、元監事はそのことを知りながら理事会に報告せず、その結果、長期間不祥事が発見できなかったという。しかし、報告書は元監事がなぜ理事会に決算報告書の偽装を報告しなかったのかについては明らかにしておらず、不正受給の原因については「実質的な業務を事実上事務局に任せざるを得なかった本連盟の歴史的風土」をあげ、「2010年4月以前から存在する長期的・構造的なものに根ざしている」と抽象的な表現にとどまっている。不正受給が恒常的に行われ発覚しなかったのは、監事が偽装された決算報告書を正当なものと理事会に報告したからと言うにとどまり、その根本的な原因については業務を事務局任せにしていた組織の長期的・構造的な問題だと言うにとどまっているのだ。

元事務局長「梯子を外された」

連盟が訴訟を起こした後、私は元事務局長に何度か取材をする機会を得た。元事務局長は「理事長を信じて仕事をしてきたが梯子をはずされた。これまで自分のしてきたことがすべて否定された」などと憤慨した様子も見せ、受給は不正ではなく理事長が認めた正当なものだったと話した。元事務局長が事務局長に就任した2010(平成22)年4月当時の連盟理事長は丸谷明夫氏の前任の平松久司氏(故人)で、2013年に平松氏から丸谷氏に理事長が交代した経緯がある。不正受給により連盟の支出は2010年度以降、年間1000万円を超える増額となったはずだが、にもかわらず連盟の運営になんら支障は生じておらず、10年近くだれもそのことに気づかなかったのというのは異様ではないか?

全日本吹奏楽連盟が朝日新聞社とともに主催して開催している全日本吹奏楽コンクール=2022年10月23日、名古屋市内

2020年1月にこの問題がニュースとして報じられた後、ある税理士のブログにこんなことが書かれていた。

「全日本吹奏楽連盟って、そんなに資金力のある団体だったのですね。―略―非営利型法人のようですが、税務申告とは、何を申告していたのでしょうか。何か収益事業を行っていたので、資金力があったということでしょうか。―略―どうやら入場券販売、プログラム販売をやっているようなので、そのあたりで、相当儲けていたのかもしれません」

全日本吹奏楽連盟の事務局長と事務局次長が不正に受給していたとされる計約1億5000万円もの金、この1億5000万円はいったいどのような金なのか? そして監事はなぜ決算書が事実と異なっていることを知りながら理事会に報告しなかったのか? 謎が多いが不思議なことにメディアは連盟の会見を伝えただけで沈黙している。

(フリーライター 三好達也)

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