「リコール隠し」に等しいゆうちょ銀行の即振サービス不正出金対応

ドコモ口座などの即時振替サービスが悪用されて銀行口座から現金が不正に出金されていた事件。ゆうちょ銀行は2017年から問題を認知していたにもかかわらず抜本的な対策をとることなく、被害者への救済も十分に行っていなかったことが明らかになった。すべての顧客が被害を受ける可能性のある問題を認知しながら、その事実を公表せずにサービスを提供していたゆうちょ銀行。その姿勢は、「リコール隠し」に等しいものがある。

2017年から起きていた

トップが陣頭指揮をとってシステムのセキュリティの堅牢性や利用状況のモニタリングについて総点検をすると表明したゆうちょ銀行。9月24日の記者会見で池田憲人社長は「当行のキャッシュレス決済サービスについてお客様に安心してご利用いただけるようセキュリティも含めたサービスの向上に全力で取り組んでまいります」と述べて謝罪した。しかし、これまでの経緯や不正出金の事実が公表されてこなかった理由について多くを語ることはなかった。

ゆうちょ銀行では複数の決済事業者と提携して即時振替サービスを提供しており、2017年7月の時点で即時振替サービスを悪用した不正出金を覚知していた。そして、その後も同様の被害が複数の即振サービスによって発生していたにもかかわらず、その事実を公表することなくサービスを継続して提供していた。被害者への補償も十分でなく、事実上、放置されたままの被害者も少なからずいるということだ。

今回、ドコモ口座を介した不正出金を最初に発表したのは七十七銀行(仙台市)だと思われるが、同行が9月4日金曜日にその事実を顧客に向けてウェブサイトで公表すると、翌週早々には中国銀行(岡山市)、大垣共立銀行(岐阜県大垣市)、滋賀銀行(滋賀県大津市)、東邦銀行(福島市)と地方銀行が相次いで同様の不正出金を表明して注意喚起を呼びかける事態となった。しかし、ゆうちょ銀行はそうではなかった。ゆうちょ銀行でも同様の被害のあることが報じられたのは9月9日水曜日だったが、それもドコモ口座に限定された内容でメディアによって報じられ、ゆうちょ銀行が積極的に不正出金について発信することはなかった。

リスクを公表しなかった理由は?

ゆうちょ銀行で複数の即振サービスが悪用されて口座から出金されている事実が明るみになったのは、9月15日に当時の高市早苗総務大臣が会見で明らかにしたからだ。もし、総務大臣が明らかにしなかったら、ゆうちょ銀行における即振サービスの不正出金の実態は世の中に知られることなく葬り去られていたに違いない。信頼を売り物にしている銀行にあって顧客の口座から預金がなくなっていたという、あり得ない事実について、なぜ、ゆうちょ銀行はダンマリを決め込んでいたのだろうか?池田社長は会見の中で「少しでも早く公表すべきという点は反省しておりまして深くお詫び申し上げる」と述べるにとどまり、その理由について深く説明することはなかった。

重大なリスクを発表することなく、被害者に個別に対応してサービスを提供していたことは、車で言えば重大な欠陥があるのにリコールを届け出ずに闇改修を続けていたに等しいのではないか? かつて大型自動車のハブの破損事故が相次いだ当時の三菱自動車工業では、リコールを届け出ることなく闇改修を続けて大規模なリコール隠し事件へと発展した。引責辞任した当時の社長は、業務上過失致死罪で逮捕・起訴されて有罪判決を受け、会社も経営危機に陥った。交通システムの欠陥は人命に直結するだけに厳格な制度が構築されているが、それでも企業の不正は起きている。金融はITと結びついてよりシステム化されつつある。そこで起きた問題はシステムやセキュリティにあるかのようにとらえられがちだが果たしてそうだろうか? 「なにがいけなかったかといえば、安全性に対するリスク感度が鈍かった、今からみるとそう思っております」と池田社長。問題の本質はシステムやセキュリティなどではなく、金融機関としての責任の欠如にあるのではないか。

(編集部)

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